表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/56

戦闘訓練

「はいそこスキル使わない」

「ソケットさん仲間にあてないことだけ考えて」

「ダイゴさん攻撃一辺倒になってる」


開けた草原でモミジの声が響く。

その相手は初心者三人組の男性剣士ダイゴ、女性剣士レナ、女性ハンターソケットだ。


「【一閃】」


ダイゴがスキルを発動すると同時に背後からゴブリンが切りかかる。

それを躱す術はなく、ダイゴはバランスを崩して地面に倒れこんでしまう。


「レナさん今のゴブリンは止められたよ。

視野は広くね」


レナはその言葉を聞きながら目の前にいるコボルトと鍔迫り合いを続けている。

内心無理ですと叫びたいが、本人にはそれほど余裕がない。


「ソケットさん、右見て」


ソケットはその言葉に応じて右を見ると新手が現れていた。

慌ててそちらに弓を向けようとするが、正面で弓を構えているゴブリンがそれを許そうとしない。

そこでモミジはため息をついて新手に向けて魔法を打つ。


「【コルド】」


モミジの魔法は、正確には魔術だが、それは的確に新手のゴブリンの頭を打ちぬき、その余波で周囲にいた二匹のコボルトを氷漬けにする。

それにあっけにとられた三人に、戦闘中だったモンスターからの追撃が入る。


「はいはい、集中する」


モミジはそれ以上の加勢をせず、目の前でモンスターと互角に渡り合う、というより互角の勝負しかできていない初心者たちを眺めていた。

それから十分ほどたってようやくモンスターを全滅させた三人は疲労困憊だった。


「お疲れ様」


その三人にねぎらいの言葉をかけるが、本人たちはぐったりとしている。

ダイゴに至っては最前線で壁役も兼ねていたため地面に座り込んでしまっている。


「どうだった」


「痛いし辛いです」

「広い視野とか……」

「矢が当たりません」


モミジの質問に三人は愚痴をこぼすようにつぶやく。

それを聞いてモミジは満足したかのように頷いた。


「まぁそうだよね、次は陣形を意識してみましょう。

ダイゴさんはさっきと同じ最前線、ただし今度は防御は無視して敵を攻撃。

レナさんはダイゴさんを狙うモンスターをつついて離脱。

ソケットさんはレナさんが追い切れないモンスターへの威嚇射撃、仲間にあてなければいいよ」


モミジはそういって三人に回復魔法を使う。

緑色の光に驚きつつも先ほどまでの倦怠感がなくなった三人は驚き戸惑っているが、モミジはそれを無視して歩みを進める。

それを慌てて追いかけようとしたところで、急に立ち止まったモミジにダイゴが追突してしまい、モミジが派手に転ぶ。


「ぶべっ」


「あ、すいません」


「いったた……この体は不便だな」


モミジたちはゲーム時代の姿でこの世界にいる。

それは本来成人女性であるモミジにとって少々不便がある。

元の世界では平均的な体躯だったが、こちらの世界では少女どころか幼児と言って差し支えない体躯をしている彼女はその身体の差に大きく戸惑っていた。

その戸惑いは他のプレイヤーにもあったようだが、少なくともモミジほどひどいものは多くはない。


「それよりあそこ、あの岩場にモンスター。

数は三体、たぶんさっきと同じゴブリンとコボルト」


モミジの言葉を聞いて三人は武器を構える。

それに応じるかのように岩場からは二足歩行する大型犬と、緑色の皮膚をした小人が現れる。

どちらもゲームでは有名な雑魚敵だが、今のダイゴ達にとってはそれなりに苦戦する相手だ。


「じゃあさっき言った通りの役割分担でお願い」


モミジの言葉にダイゴが飛び出す。

その数歩後にレナがついて、ソケットが弓を構える。


「【兜割】」


ダイゴがスキルを発動する。

剣士の初期スキルの一つ、【兜割】は自分の攻撃力の1.5倍のダメージを与える技だ。

攻撃の隙が少ないうえに終盤でも使える便利な技だが、難点はダメージが自分の攻撃力×1.5の固定ダメージという事と素早い敵には当てにくいという事だ。

固定ダメージなので防御の堅い相手などには有効な一撃だが、今回のような。

つまりゴブリン達相手では大したダメージを負わせることはできない。


「【刺突】」


ダイゴの【兜割】を躱し、彼の脇腹をこん棒で殴りつけようとしたゴブリンをレナが【刺突】で突き刺す。

【刺突】自体はダメージの増加などの特殊な効果はないが、剣で槍に匹敵するリーチを誇る技だ。

その【刺突】を躱すことができずにゴブリンは頭を貫かれて絶命する。


それと同時にダイゴの反対側から襲いかかろうとしていたコボルトの眼前を一本の矢が通過する。

ソケットが放ったもので、本当は頭を狙ったのだが少しそれてしまったものだ。


しかしコボルトはその矢に委縮し数歩後ずさる。

そこを、ダイゴは見逃さずコボルトの首をはねた。

残ったのは一匹のゴブリンだけだ。

さすがに分が悪いと悟ったゴブリンは踵を返して逃げようとするがモミジがそれを許さなかった。


「【コルド】」


モミジが放った魔法はゴブリンにあたることはなかったが、ゴブリンの周囲の地面を氷漬けにした。

ダイゴ達のようにちゃんとした靴を履いていれば大したことはないが、凍りついた草が裸足のゴブリンを傷つける。


ぎゃっぎゃっとゴブリンが叫ぶが、その大きく開いた口をソケットの放った矢が貫いた。


その一撃でゴブリンは絶命し、戦闘は終了した。


先ほどとは違ってあっさり敵を全滅させられたことに初心者三人は驚きを隠しきれない。

モミジ自身もここまでうまくいくとは思っていなかったため、少し驚いているが三人のように顔に出すことはない。


「今のは基本的な連携パターンだけれど、今度は自分たちで話し合って決めてみて」


まだはしゃいでいる三人いモミジがそういうと、笑顔でハイと答えてから座り込んで作戦会議を始めてしまった。

一瞬叱ったほうがいいかと思ったが、それは今日の寝床を確保してからの反省点として伝えようと思い直して懐に手を入れてこちらの世界ではタバコを持っていないことを思い出す。

ローリエの村の雑貨屋ではソケットの使う矢を大量に購入することができたが、反面いくつかの嗜好品を購入することはかなわなかった。


(もしかしたら小さい村だから品ぞろえが悪かったのかな)


モミジはそう予想しつつ、できればそうであってほしいなと望みながら初心者達の作戦会議の邪魔になるであろう雑魚敵を一蹴していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ