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ローリエの村

始まりの荒野を歩くこと一時間、ドミナスオンラインにトリップした一同は小さな村にたどり着いた。

それはゲーム時代のローリエの街とは似ても似つかないような村だったが、その入り口にはローリエの村と書かれた立札があった。

それを見た一行は、メッセージに書かれた一文を思い出す。

ここはアトラシアが建国されるよりも以前の世界だという事だ。


「ローリエの街は歴史のある街だったんだな……」


「俺、街のシンボルに落書きしちゃったよ」

「俺もだよ」

「俺なんか街の中でポイズンキャット召喚しちゃったぞ」

「お前かよ一生恨んでやる」


誰かの言葉につられてぽつぽつと、プレイヤーたちはローリエの街で行った悪行を暴露していく。

中にはマナーどころかルールに反した行動を行っていた者もいるが、この際目を瞑る。


「悪行の暴露大会はその辺りにしてだ、この中に元の世界に戻りたいと考える人はどれくらいいる」


先ほどから音頭をとり続けたギルド:グランドミートのロリクスがプレイヤーたちに声をかける。

その場にいたのはおよそ1,000人ほどの団体なので村の人々がなんだなんだと外に出てくるがお構いなしに話を進めている。


「ひぃふぅみぃ……ざっと3割くらいか。

後の七割の人たちには申し訳ないけれど、乳酸菌の野郎を探すのを手伝ってほしいんだけれど」


「悪いけれど俺はパス、やらなきゃいけないことがある」


ロリクスの言葉に1人の男がそういってその場を去ろうとする。

それをロリクスが肩を掴んで止める。


「頼むよ、礼は絶対するからさ」


「いらねえよ、それより奴隷市のある街へ行かなきゃいけないんだ! 」


それを聞いた人達は一瞬黙り込み、そして急にそわそわし始めた。

そして、奴隷市のある街へ行くと言い出した男性に続いて次々と、俺も俺もと男性陣がついていく。

今この世界は現実の世界であり、彼らは金を持て余した人たちだ。


そしてこれはネットゲームのプレイヤーの中でも少数になるが、スラングで魔法使いと呼ばれる人々がいる。


「さいってー」


一部の女性陣がそうつぶやく。

それに合わせて女性陣の一部が頭を抱えてうずくまっている。

その女性たちは主に現実への帰還を願った者たちだ。


「なんかあったらメッセとばしてくれよ!

後なんかわかったときも頼むぞ! 」


ロリクスは大きな声で立ち去ろうとした人たちに呼びかける。

男性陣はそれに応じるように手を挙げて村の外に出ていってしまった。


「性欲には勝てないか……俺も後でいこ」


ぼそりと呟いた最後の声は、とても小さなものだった。


「それで帰還志望の人たちを中心に乳酸菌のあほを探そう。

できる事なら期間を望まない人も手伝ってほしい。

手伝う、と言っても積極的に動かないでいいから少しでも情報を手に入れたら教えてほしいんだ」


ロリクスの言葉に反対する者はいなかった。

しかし、数名の女性が嫌悪感をむき出しにしているのは仕方のないことだろう。


モミジ自身も顔をしかめている。


「そんじゃ、みんな同じ方向に行っても意味ないから手分けしようか。

とりあえずレベルカンスト済みの人をリーダーにして、低レベルの人を各グループに振り分けたほうがいいと思うけどどうかな。

ただ、既存のパーティで行動したい人たちそうしてくれ」


ロリクスがそういうとその場にいた半数が立ち上がり村を出ていく。

各々別々へ向かっているあたり、ロリクスの意見には反対していないようだ。

モミジはその人たちを見送る。

中には一緒に来ないかと誘ってくれるフレンドもいたが、それは断っていた。

モミジは職業柄、誰かとの連携をとることが困難なのでパーティを組むことを嫌っていた。

もっとも、本人はソロプレイを楽しんでいるので特に影響は無いの。


「それじゃ……モミジさんはどうしようか」


まずグループを決めるにあたってモミジが問題となった。

先ほど見せたステータスとスキルが後を引いており、モミジとパーティを組みたい人はいない。

けれど、状況がそれを許さない。


「初心者のレベル上げを手伝ってあげられないか? 」


ロリクスの提案はこうだった。

モミジの攻撃力と攻撃範囲を生かして敵を殲滅する。

そして、パーティ昨日を利用して共にモンスターを討伐した際の経験値で初心者のレベルを上げる。

こういったパワーレべリングは嫌われる傾向にあるが、低レベルのプレイヤーが生きていくにはこの世界は厳しすぎる。


「とりあえずレベル100未満の人たちを鍛えてあげてほしいんだけれど、どのくらいいる? 」


その言葉に3人が手を挙げた。

男性剣士が1人、女性剣士が1人、女性ハンターが1人だ。

モミジはそれを見て露骨に顔をしかめる。


3人の装備は全てプレイスタート時にもらえる初期装備だった。


初心者の育成に異論はない。

けれど、レベル1桁の人間を育てるという事には忌避感があった。

以前モミジが手伝ったプレイヤーの中にレベル1桁の人がいた。

彼は、初心者とは思えないスピードでレベルを上げていたがモミジの支援があってこそのスピードだった。

それを自分の実力と勘違いした彼は、上級者と変わらないステータスを手に入れたときに豹変した。


あらゆるプレイヤーに高圧的な態度をとり、反感を買った。

その反感が彼を育てたモミジにまで伝染した。


そのころすでにモミジは彼にはかかわっていなかったため、文句を言われても困ると言い返していた。

しかし彼が高圧的になる原因ではあったため、それ相応の責任をとらなければならなくなり、育成を手伝った彼をPKし続ける日々が続いた。

モミジはこのゲームのPKシステムは強者と戦えるので楽しんでいたのだが、弱者をいたぶる趣味は持ち合わせていなかった。

結局そのプレイヤーは引退してしまったが、最後に「お前の手助けなんかいらなかった」とそのプレイヤーから言われてしまい、それ以来モミジは初心者の育成に手を貸すことはなかった。


「レベルをとりあえず……50くらいまでは上げてほしいんだけどお願いできないかな」


ロリクスはモミジの表情の変化に気付き、そう頼み込む。

レベル50と言えばまだ初心者の域を脱してはいないが低レベルエリアで生活することくらいはできる。

その後はこちらに任せてくれて構わないというロリクスの言葉に応じてモミジはその3人の育成を、しぶしぶ了承した。

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