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始まりの荒野

【始まりの荒野】と呼ばれる地がある。

そこはドミナスオンラインのプレイヤーが最初に訪れる、というよりはスタート地点として設定されている荒野だ。

そこではチュートリアルとして装備のしかた、戦闘の仕方、スキルの使い方、レベルの上がり方等々を学ぶために用意された場所だ。

そこは一度出ると二度と訪れることができない場所であり、初心者限定のフィールドとなっている。


そこに、パーティに参加していた人々は立っていた。


「なんだこれ」


1人のプレイヤーが突然の転移に驚きの声を上げる。

最初は何かのイベントかと思われたが、運営側のロキシーさえも驚いていることからプレイヤーたちはそうでないと悟った。


【ようこそみなさん、ドミナスの世界へ】


現状を把握しようと周囲を見渡すプレイヤーたちの目の前にメッセージウィンドが開く。

これはイベント開催時や、クエスト発生時に表示される物で、プレイヤーにとっては見知った者だった。

このメッセージの指示に従えばある程度は何とかなる、というのがこのゲームの通説でもあったので、その場に居合わせたプレイヤーは、ロキシーを除いてメッセージに注目した。

ロキシー自身はどうにか会社に連絡を取ろうとメニュー画面を開いてあれこれと操作をしている。


【このメッセージはイベントやクエストの発生の通知ではありません。

あなた方はこのドミナスオンラインの世界に転生しました。

元の世界に戻る方法は私のもとに来ることです。

ステータスや所持品はゲーム時代のままです。

この件に運営はかかわっていません。

あなた方は死ぬことはありません。

寿命もなく、殺されたところでゲーム時代同様時間がたてば最後に訪れた街で復活します。

最後に、この世界はドミナスオンラインのアトラシアという国の建国以前の世界です。

エルフやドワーフ、獣人と呼ばれる種族が人間同様繁栄している世界ですが、種族間の仲はさほど良くありません。

戦争は起こっていませんが、ご注意ください。

by乳酸菌】



メッセージを読み終えたところで、プレイヤーの反応は三つに分かれた。


一つは歓喜する者、これは元の世界での生活に困窮していた者等がこれにあたる。

もう一つは嘆く者、こちらは家族がいる者等が中心だ。

そして、最後に新しいイベント程度にしか考えていないもの。


モミジは3番目の、新しいイベント程度にしか考えていなかった。

ただし、元の世界に戻ろうと考えることもない。

彼女の人生は、行き詰っていた。


将来に希望はなく、異性との出会いもないため色恋沙汰とは無縁。

そして、より楽しい事が有るならこのゲームの世界のがいい、そう考えていた。


「それにしても乳酸菌か……」


1人のプレイヤーが呟く。

メッセージの最後に書かれた言葉、by乳酸菌。

この言葉に見覚えのある者が数名いた。


ドミナスオンラインの最古参メンバー、最初に魔法使いを選択した、そして魔法使いを規制する原因となった魔法使い。

それが乳酸菌というプレイヤーだった。


乳酸菌というプレイヤーはとにかく相手の裏をかくこと、システムの隙間をつくことを得意としていた。


「あいつ何やってんだかな」


プレイヤー達は頭を抱える。

乳酸菌は魔法使いが規制されて半年ほどたってから姿を見せなくなった。

そのときすでに彼はスキルもレベルもコンプリートしていたため、飽きて引退したのだろうと噂されていたが、実際はこの世界にトリップしていたのだ。

それを知り、そしてプレイヤーたちは本当にトリップしたのかを確かめるために自分の頬をつねり、痛みを感じたことでゲームではないと理解していた。


「よし、とりあえず乳酸菌を探そう。

そしてぶっ飛ばそう」


プレイヤー一同、当初の目的をはっきりと決めた。

それは今の状況を打破する方法であり、一つの希望でもあった。


「【無の衝撃】」


その最中、モミジは魔法スキルを放った。

乳酸菌の事は知らない、そんな相手を信じることはできないというのがモミジの持論だ。

それは間違いではない、下手をすれば命さえかかっている。

しかも、引退したとされる後でもその悪名だけは残っている人物の言葉とすればなおさらだ。


「うん、問題なく仕えるみたい」


モミジの放った【無の衝撃】は地面にクレーターを作り、穴の底を氷結させる。

それを見て、一部のプレイヤーは硬直していたが少なくともスキルやステータスは引き継がれていると確信することができた。


「【刺突】」「【フレアロー】」「【乱撃】」


各々得意とするスキルを発動し、その感覚を確かめる。

【刺突】などの剣士が使う、肉体を動かして使うスキルは発動を意識すればできるようだ。

逆に弓のスキル、【フレアロー】のように矢に炎をまとわせて飛ばすようなスキルは意識だけではできず、スキルを選択する必要がある。

モミジの魔法も同じように選択が必要だが、ゲーム時代に使っていたショートカットコマンドを使用することができたため戦闘には影響はなさそうだ。


「これは剣士を前衛に置いた方がいいかな……」


「まて! あんな魔法使いの援護を受けるのは嫌だぞ! 」


大手ギルドの人間の言葉に反論が集まる。

ドミナスオンラインで魔法使いが嫌われる理由の一つに、広範囲を高火力で焼き払うというコンセプトがある。

この広範囲、という部分には敵味方の区別がない。

つまりモミジの撃った魔法は例外なく、それこそ敵であろうが味方であろうが第三者であろうが焼き払う。

以前アトラシアを攻撃した後、【無の衝撃】で馬車もろとも居合わせた者たちを吹き飛ばしたが、あの時もその場にいた者全員にダメージが入っていた。

もっとも、あの時は全員一時的にパーティを組んでいたためフレンドリーファイアと認識されただけでモミジから受けるダメージは幾分か軽減されている。

そのため、アップデートの際に追加された対魔法装備などを着ていた者は生き残ることができた。

魔法使いは運営にとっても扱いにくい職業だったが、敵として出すにはこれ以上なく使いやすい存在だったからだ。


「あーモミジさんというのか、敵単体を攻撃できる魔法はないのか」


「【フレイア】【コルド】あと【フレアランス】とかのランス系とアロー系の魔法くらいかな」


「……この辺りならともかく、敵の強さによっては使い物にならないな。

詠唱短縮が使えるみたいだけれど、最前線だとどのくらいいける? 」


「【無の衝撃】を詠唱破棄で5回、詠唱短縮で15回、完全詠唱で30回くらい」


モミジの言葉にその場にいた全員が言葉を失う。

先ほどモミジが詠唱短縮で放った【無の衝撃】は地面に直径20mは有るかと思われる。

少なくともそれを5回も撃たれたら、そう考えた者たちは一様に戦慄した。


「それは心強いけれど……ちなみにステータスを教えてもらっても? 」


大手ギルドの人間の言葉にモミジはステータスを表示し、それを相手に見せる。

ドミナスオンラインでは、各自のステータスを自由に開示することができる。

もちろん開示する側の許可がない限り見ることはできないが、パーティの連携を決める際などにはこの開示機能は重宝された。



Player:モミジ

Job:魔法使い☆

SubJob:賢者☆


LV:500☆

HP:5040

MP:25600


筋力:140

防御力:121

精神力:1825

魔法力:2439

敏捷力:4020


所持スキル

初級魔法☆

中級魔法☆

上級魔法☆

最上級魔法☆

古代魔法☆

禁忌魔法☆

初級魔術★

中級魔術★

上級魔術★

最上級魔術★

古代魔術★

禁忌魔術★


異常がモミジのステータスだ。

それを見た者は、再び硬直した。

☆は既に限界まで育てられたことを意味し、★は条件付きで限界まで育てられたことを意味している。

主に★はサブ職業のスキルを限界まで育てた場合に用いられる。

つまり、モミジは現状すべてのスキルを取得しているという事になる。

それも魔法使いで、という点が重要だ。


ステータスを見れば一目瞭然だが、魔法使いのHP、筋力、防御力は低い。

特に彼女は魔法攻撃特化のため、そのステータスは偏っている。


「これは最前線は厳しいな……」


モミジの防御力は、初心者から見ても高いものではない。

というよりレベル200程度の剣士が相手ならば一撃で切り伏せられる可能性がある。

普通であればレベルが300も開いていれば、それこそ羽虫でも払うかのごとくあしらう事が可能だ。

事実モミジもそれができる。

それどころか同レベルの剣士相手でも一撃で打ち倒すことができる。

魔法を放つことさえできれば。


「うぅむ……」


モミジのステータスを見た者たちは顎に手を当て悩んでしまう。

彼女を最前線に出すわけにはいかない、かといって援護を頼むわけにもいかず、さりとて何もさせないには惜しい。

それをどう解消すべきかを解決する手段を考え付く者はいなかった。


「しょうがない、ひとまずローリエの街に移こう。

そこまでは剣士を戦闘に、ハンターはその援護、賢者は回復の用意、モミジさんは後からついてきて最後尾の警戒をお願い」


ローリエの街、始まりの荒野から一番近い街の名前だ。

そのため、この街は初心者の拠点となっていた。

まずはそこを目指すという方針を大手ギルドの人間、戦闘主体ギルドのグランドミートのリーダーロリクスはそう提案した。


その提案に異論を唱える者は誰もいない。

元の世界に戻る方法はある、そのためには同郷の乳酸菌というプレイヤーを探す。

そのためには協力を惜しまないというのが全員の考えだった。

その中には、本来先頭に立つべきロキシーの姿もあった。

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