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モミジの見張り

 数時間が経って、ソシエがモミジを蹴り起こして見張りを交代した。

 最初は肩をゆすって起こしていたソシエだったが、もう食べられない、あと五分待ってお母さん、等々古典的な寝言を吐いたモミジに眠気の限界を超えたソシエが強烈なけりを叩き込むこととなった。

 

「うぅ……」


 ソシエと見張りを交代したはいいが、蹴られた腹が傷むのかうめき声をあげながら焚火に薪を放り込む。

 パチパチと生乾きの薪が音を立て、鍋にはった水がぐらぐらと沸騰し始めた。


 当初の予定で3番目に見張りをする人間が朝食の準備を行う事になっていたが、自他ともに料理下手を認めるロリクスは早々に候補から外されていた。

 朝食まではだいぶ時間があるものの、料理というのは意外と時間がかかるため油断はしていられない。

 モミジの役割は、見張りよりも朝食を作ることに重点を置かれていた。


 そもそも現在の時刻は明け方であり、警戒すべき夜盗や夜行生物はそろそろ眠りにつくころだ。

 空も白みがかってきており、ソシエの時ほど緊張しなくとも周囲警戒は可能である。


「乾燥キノコ、山菜、干し肉、出汁は乾物から出るからいいや。

塩で味を調えて、スープは出来上がり。

玉子を割って、箸で溶いて、フライパンで崩しながら焼く、スープを少し混ぜながら遠火でじわじわちゃちゃっと、スクランブルエッグ完成。

パンを切ってスクランブルエッグを挟んで、臭いに釣られてきた狼に【プロミネンス】、焚火であぶって焦げ目をつけて、ホット玉子サンドの完成。

あと一品何か欲しいかな、モンスターに【無の衝撃】、お醤油にごま油、お酢を混ぜて簡易ドレッシングー。

この世界にお醤油あって本当に良かったー」


 歌うように朝食の準備を進めつつ、その臭いに釣られたモンスターや野生動物を適度に撃退したモミジは作った料理をアイテムボックスに放り込む。

 アイテムボックスの中身は入れた時の状態で固定されるため、料理はできたての状態で提供する事が出来る。


「あ、そうだ」


 何かを思い出したのか、はたまたよからぬことを思いついたのかモミジはスクッと立ち上がってテントの前に立つ。

 そしてポケットからインクの入った小瓶と足元から引き抜いた草の葉を手に持ち、テントに入った。

 そのまま葉にインクをつけてロリクスの額に肉と書いた。


「お約束って大切大切」


 にやにやと笑みを浮かばせるモミジはソシエにちらりと目を向ける。

 そして少し考えてから、首を横に振ってテントの外に出た。

 さすがにソシエにはやれなかったのだろう。

 仮に悪戯を決行していたとしたら、寝起きのソシエに首を絞められていたかもしれない。

 ソシエは魔法使いプレイヤーとしては珍しく短気な性格だ。

 育てにくく、レベルをカンストさせれば最強になれるがそれまではゴミ同然の魔法使いをプレイするには根気が必要だからだ。

 だからと言って、養殖やパワーレベリングと呼ばれる手段をとったわけではないと聞いてモミジはソシエという人物に『謎』という評価を下していた。


「ナイア」


「お呼びで? 我が主」


「このダンジョンに何が仕掛けられているのか、ちゃっちゃと吐きなさい」


 もし攻撃が通るのであれば杖を構えていたであろうモミジだったが、ナイア相手では無意味と分かっている為その手間さえ省く。


「んーこれと言ってなにもないですよ。

強いて言うなら魔法禁止、武器禁止、防具禁止、下着禁止、敵が全部スライムと触手という非常に厄介な空間がありますが、今回は通らないルートです」


「十分仕掛けてるじゃない……」


 げんなりとしながら頭を押さえるモミジだったが、今回は使わない道だと聞いてひとまずため息を漏らす。

 ナイアの言葉は絶対に信用してはいけないものだと認識しているからだ。


 大人の言う、怒らないから言ってみなさいと同義だと認識している。


「ちなみにニールの趣味です」


「乳酸菌ぶっ飛ばす」


 ナイアの言葉にモミジの中で殺意が膨れ上がったが、今は無意味である。

 その殺気に一部の野生動物が逃げ出す事となったが、それは本人の知らぬことであり大きな害もない。


「この先そういった道があるってことよね」


「まあ、まともではない道はそれこそ山の如しですね。

体液を啜る青少年によろしくないモンスターが無限に湧いて出る道とか、オークがエルフを飼育する集落とか、男女の性別が入れ替わってしまう空間とか、半漁人の闊歩する街とか、邪神復活をもくろむ教団とか。

それらを越えた先にニールの居城があります。

他にもここまで無視してきた場所には似たような場所がちらほらありましたけどね」


「【ディメンション】使えて本当に良かった……」


 嘆きと喜びが入り混じった声でモミジはそう呟いた。

 日の出を過ぎて、太陽の日差しが目に刺さるのか、その瞳には微量の涙が浮かんでいた。

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