野営
件のダンジョンにたどり着いた一行は、まず野営の準備をした。
今の肉体は確かに優れている。
強靭で、しなやかで、丈夫で、おまけにゲーム中のアバターを反映している為美男美女揃いだ。
一部の人間は奇妙な顔を作り上げて後悔している者もいたが、それはそれで味のあるルックスだろう。
だからと言って、先ほどまでは盗賊の襲撃に備えていた。
さらに慣れない馬車に揺られて胃の中身を全力で混ぜられていたわけだ。
結論から言って、3人は非常に疲れていた。
そのためダンジョンを抜けるのは明日にして、日が高いうちに野営の準備を済ませて今日はさっさと休むという方針をとる事にした。
「さてと、テントはこんなもんでいいか」
ロリクスがロープを引っ張りながらテントを立てる。
一つしか立てていないが、これにはモミジもソシエも了解している。
というよりも荷物が増える方が嫌だったので、男女共同であっても気にしないというのが実情だ。
モミジは性格上の問題で、ソシエは4人の兄妹に囲まれて育ったため男女同室という事に対して忌避感がない。
ロリクスだけは反対していたが、最終的に誰が飛行魔法を使うのかという言われて沈黙してしまった。
「薪集めてきたよ」
ソシエが小さな体で大量の薪を抱えて戻ってきた。
それを見てロリクスは布の切れ端と着火用の道具を懐から取り出す。
魔法や魔術で火をつけてもいいのだが、火力が高すぎて周囲一帯を焦土にしかねないという理由からロリクスが却下した。
事実、威力の上方修正はできるが下方修正が苦手なモミジと、そもそもコントロールできず常に最大火力で扱っているソシエは目をそらして聞かなかったことにしていた。
「ソシエー、人参とって」
「はいよー」
モミジが干し肉をちぎりながらソシエに呼びかける。
野菜スープを作るつもりだが、ついでに干し肉も入れてしまおうという魂胆らしい。
食料はモテる限り持ってきており、アイテム欄の大半は食料だ。
さらにテントなどの必需品を用意して、入りきらない分は手持ちで移動している。
そのためパッと見では大した量の荷物ではないが、その気になれば3ヵ月前後は旅ができる。
「モミジ、火ついたぞ」
「りょーかーい、お鍋でお湯沸かしておいて」
「はいよー、なんかこうしてると新婚みたいだな」
「ロリクスが犬で私とソシエが夫婦ね」
「俺は犬扱いかよ……」
「ロリ、お手」
「待てこら、それじゃ俺がロリコンみたいじゃねえか!
お前ら2人外見がロリなだけあって結構洒落にならねえだろ! 」
「やだ奥さん、ロリコンですって」
「外で寝てくださる? 」
「お前ら! 」
三人は冗談を口にしながら野営の準備を進めた。
日は傾き始めていたが、まだ夕飯には早い時間だったであろう。
それでも温かいうちに食べようという結論に至り、味の薄いスープと硬いパンで腹を満たした。
「いいか? 」
「恨みっこなしだよ」
「覚悟はいい? 」
そして三人はたき火を囲み、神妙な顔つきで互いを見つめる。
「「「じゃーんけーん、ぽん! 」」」
掛け声と同時に手を突き出す。
その結果、モミジとロリクスはグー、ソシエがチョキだった。
「じゃあ私が二番目か」
三人で見張りを行う場合、二番手が最もつらい。
一番手と三番手は連続して眠れるが、二番手は途中見張りを挟んでから寝なおすためだ。
「そんじゃ俺が一番でいいか」
「OK、そんじゃお先にー」
「おやすみー」
ロリクスだけがその場に残り、モミジとソシエはテントに入る。
そしてすぐに布団をかぶり、眠りについた。
「……暇だ」
一人残ったロリクスは木の枝で火をかき回しながらタバコを取り出して火をつけた。
集団行動だったため我慢していたそれは、肺を煙で満たしていく。
その煙を吐き出して、アイテムボックスから剣を取り出した。
ゲーム時代に愛用していた物で、より性能の高い物が手に入っても使い続けていた武器だった。
それを布と油で丁寧に拭いていく。
「できれば研いでやりたいんだが……水は貴重だし結構うるさいからな」
そう言って手入れを終えた剣を一度撫でてから再びアイテムボックスに戻した。
そして今度は腰に差した、こちらの世界に来てから使い始めた高性能な剣を引き抜いて同じように手入れをする。
時折周囲を見渡して警戒をするが、異常がないとわかると剣の手入れに戻る。
一通り武器の手入れを終えたら今度は鎧の手入れに取り掛かった。
関節部のさび落としと油さし、こびりついた血をぬぐってと見張りの時間中はひたすら手入れをしていた。