ラッキー
翌朝、準備を済ませた一行はモミジとソシエ二人がかりで飛行魔法を使い、ロリクスを抱え上げていた。
非常に不恰好であり、またモミジ、ソシエ、ロリクス三人全員がそう覆うに辛い思いをすることになった。
まずモミジとソシエは小柄な肉体でロリクスという重装の成人男性を運ぶという非常に肉体的に堪える移動時間になった。
対してロリクスは高高度を二人の幼女に支えられての移動という、一歩間違えたら即死につながる状況に置かれ、精神的に疲弊した。
結局昼食のために地面に降り立って、そこからは徒歩での移動となった。
「うでが……」
歩きながら腕をマッサージしていたモミジだが、その後ろではソシエが回復薬を飲みながら歩いていた。
どうやら筋肉痛にも回復薬は有効らしく、ソシエは腕を振って調子を確かめてから小さくうなずいていた。
「モミジ、ソシエ3時方向でトラブルのようだ」
ロリクスが何かを発見したらしくすぐさま二人にそれを伝える。
その方向に目を向け、よく目を凝らすと白い箱状の物と赤い炎、煙が確認できた。
おそらくは馬車が何者かに襲われているのだろう。
「どうする」
「加勢してあの馬車を奪うか、それとも送ってもらうか? 」
「いや、それ常識的に考えて後者だろ」
モミジのあまりに非人道的な言葉に思わず声を上げたロリクスだったが、助けるならば早い方がよい。
そう考えて一気に駆け出した。
その後ろをモミジとソシエはゆっくりと近づいていく。
乱戦になると魔法使いの出番はない。
広範囲殲滅を得意とする魔法使いは、仲間を巻き込む可能性があるため小規模小威力の支援しかできない。
だからと言って適当に攻撃を加えて、敵のターゲットにされてしまえば低い防御力と体力が災いしてあっという間に死んでしまう。
一部の魔法使いを除いてレベル50代の相手であっても4割前後のダメージを受けてしまう事もある。
「状況説明! 」
腰から剣を引き抜いたロリクスは馬車に近づき、声をかける。
すると馬車の陰に隠れていた男が、盗賊だと叫んだ。
周囲に目を配ると馬車を守るように戦っている者達はそれなりに豪華な鎧を身に纏い、防御姿勢を取っている。
対して包囲するように展開している者達は薄手の装備で、フードを深くかぶり顔を隠している。
「加勢する! 」
そう叫んだロリクスは剣を振るい、一人、また一人とフードの集団を切り伏せていく。
そしてその加勢により盗賊も不利と判断したのだろう。
四方八方へと散り散りに撤退していった。
「いやはや助かりました。
なんとお礼を言ってよいか」
「あー気にすんなといいたいとこなんだけどさ。
俺たち今旅の途中でさ」
そういって地図を取り出したロリクスに馬車の持ち主が目を輝かせる。
「ちょいとこの辺りまで行きたいんだが、お宅らその方面へ行くなら乗せてってもらえんか? 」
「ふむ……私等はこのあたりに行く予定ですからね。
この辺りで離別という形でよければ。
お礼として道中の食事はこちらで用意させていただきます。
あとついでと言ってはなんですが……」
「さっきの奴らがまた来たら、だろ。
良いぞ別に」
「ありがとうございます。
では、いま馬車の方を直していますので少々お待ちください」
そう言って男は馬車に近づき、先ほどまで戦闘を行っていた者達に声をかける。
車軸などに破損が見られたようだが無事修理できたらしい。
やはり乗り物があるというのは便利なのだろう。
徒歩の時と比べるまでもない速度で一行は目的のダンジョンにたどり着く事が出来た。