パーティと事件の始まり
アトラシアとの戦争に勝利して一週間。
モミジはあるパーティに参加していた。
ドミナスオンライン配信終了を惜しむ兼バージョンアップ決定記念パーティ。
ドミナスオンラインは配信終了が決定したが、新たなサーバーを使いバージョンアップを行うと運営から情報が配信された。
その内容はドミナスオンラインをベースにモンスターの増加、未踏破エリアの増加、NCPの制度上昇、ラグの低減等々の大型アップデートを行うことが決定した。
そのパーティを先日モミジが打ち滅ぼしたアトラシアの城で行っている。
モミジはそのせいで居心地が悪いかと思いきや、適当に酒を飲み適当に料理をつまんでいる。
VRMMOの特徴として、食べ物を味わえることが挙げられやすい。
また、酒などの嗜好品を楽しむことができるという物もある。
特に酒に関しては、ほろ酔い気分にさせてくれると人気が絶えない。
中には現実では酒を嗜むことができないため、ゲーム内で飲み会を開くという人もいる。
またVRの特性上リアルタイムでの会話が可能なためゲーム内で同窓会を開くという人もいたりする。
「お飲み物のお代わりをどうぞ」
NPCがモミジに飲み物を進める。
実年齢が20に満たない者には酒を提供することがないのはゲーム内でも現実と同じだ。
ただしこれは日本のみのルールであり他の国には適用されていない。
モミジは差し出された赤と緑の入り混じったスライムのような飲み物を受け取り一口で飲み干して、黒と青を交互に重ねた飲み物を手に取る。
「よくそんな気持ち悪い色の物体を飲めるよね……」
モミジに話しかけてきたのは、彼女がプレイを始めた当初からの友人であるコメットというプレイヤーだ。
職業はハンターでレベルはカンスト済みの古参プレイヤーだ。
「見た目はあれだけどスライムみたいなのど越しがたまらないよ」
モミジの言葉にコメットは頬をひきつらせる。
しかしすぐに取り直して、モミジの持っていた皿から肉を一切れ奪い取った。
「やっぱりおいしいよね……現実ではこんなもの食べられないもん」
コメットが泣きそうな表情で肉を咀嚼する。
モミジも負けじと料理を口に詰め込んでは、現実での生活を思い出してか泣きそうな表情になった。
「皆様、運営のロキシーです」
ふと壇上から声が上がった。
全員がそちらに注目すると同時に、ロキシーと名乗った運営の人間が話し始める。
「此度はお集まりいただきありがとうございます。
このドミナスオンラインが新たなバージョンへ移行できるのもひとえに皆様のご揚力あってのものだと」
ロキシーはそこまで言って、目頭を押さえる。
感極まる、とはまさにこの事だろう。
「本当に、ありがとう、ございました」
ロキシーは言葉を途切れさせながらもお礼を述べる。
それに合わせて会場に集まった者たちが歓声を上げ、次々に言葉を述べた。
「ありがとう運営! 」
「最高のゲームだ! 」
「ドミナスこそ人生」
「ロキシーは俺の嫁」
次々上がる歓声にラグが発生してプレイヤーたちは処理落ちをしている。
けれど歓声はやむことがない。
そのはずだった。
唐突に歓声がやんだ。
先ほどまでの喧噪が嘘のように静まり返っている。
その場にいたすべての人間が口を閉ざしたわけではない。
全てのプレイヤーが、ロキシーを含めて一瞬で消えてしまった。
その場に残されたのは無機質に酒を運ぶNPCと、そして静寂だけだった。