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鬼ごっこ

 モミジはこの時ばかりは小柄なアバターを選んだことに後悔した。

 体が小さい分人ごみをすり抜けるのはたやすい。

 しかしその分体重が軽く、人にぶつかると簡単によろけてしまう。

 更に歩幅が狭いため、長距離を移動するには向いていない。


「あーくっそ、ぼんきゅっぼんとは言わないからすらっとした体にしておくんだった! 」


 悪態をつきながらも速度は緩めない。

 最悪の場合屋根に上って逃げてもいいのだが、そのための労力と時間を考えると、こうして走った方が早いと結論を出していた。


「わるいこはいねーかー」


「それはピエロじゃない! 」


 後方から追ってきたルーランに突っ込みを入れるが、顔は正面を向いたままだ。

 流石に素早さ特化の職業相手の追いかけっこは分が悪いらしく、モミジは見る見るうちに追い詰められていく。

 そしてついに、行き止まりへと追い込まれてしまった。

 道中何度か道を修正しようとしたが、その都度ルーランによって邪魔されてしまったためだ。


「降参するなら、優しくしてあげるよ」


「今優しく見逃してほしいかな……」


「それは無理、大丈夫大丈夫、痛くしないから」


 そう言ってナイフを握りしめながらじりじりと近づいてくるルーランに、モミジはどうすべきか考えていた。

 魔法で迎撃できないか、否、周囲への被害が大きすぎる。

 魔術ではどうか、否、素早さ特化の相手には単発魔術など当たらない。

 体術はどうか、否、同じ魔法使いならともかく近接戦闘主体の相手にそれは自殺行為だ。

 逃げ道は、無い。

 今モミジの背後は街を囲う、防護壁だ。

 左右は民家があり、逃げるための道はない。


「女の子は久しぶりに相手にするよ、ふっふっふ」


「残念私は身持ちが固いんだ、無の衝撃! 」


「なっ! 」


 モミジが魔法を、それも範囲魔法を使用したことでルーランに驚愕の色が浮かぶがすぐさま持ち直す。

 なぜならモミジが魔法を撃ったのはルーランに対してではなく、背後にあった防護壁に対してだからだ。


 本来、この防護壁は外敵からの侵入を防ぐため非常に頑丈になっている。

 しかし内部からの攻撃という事に加えて、【無の衝撃】という物質であれば大抵の物を粉微塵にしてしまう危険な魔法である。

 その二つの事象が原因で防護壁には人が潜り抜けられるぎりぎりの大きさの穴が開いた。

 それはモミジが小柄であるため通り抜ける事が出来たが、一般的な体躯のルーランでは潜り抜ける事が出来ず迂回する羽目になった。


「さて……どうしようかしらこれ」


 そうモミジが漏らした原因は、街を取り囲むように魔獣が立っていたからだ。

 ナイアの攻めてきた時よりも多い、それだけでも絶望するには十分だがそこにいた大半は龍種と呼ばれるモンスターの中でも最上位に君臨する者達だった。


「セカンドゲーム、大群から街を守れ。

MPが枯渇しないように気を付けてねぇ、最強クラスの魔法使いさん」


 いつの間にかモミジの横に立っていたルーランは心底楽しそうにそう言ってのけた。

 モミジのこめかみに浮かぶ青筋に、気付く様子はない。

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