迷子のモミジ
ニールの居城を目指すことにしたモミジたちは、すぐさま移動を開始した。
センチネル帝国、すぐに行ける範囲内にある国だ。
その実態は、帝国という肩書でありながら非常に友好的な国である。
本来帝国とは周囲の国々を吸収して肥大していくものであり、好戦的な事が多いがなぜかこの国はその例にそぐわない。
「……ゲーム時代もそうだったけどすっげえ和やかな国だな」
「うん、そこら辺の国よりもよっぽど安全だし」
帝国領ではその治安の良し悪しに差はあるものの一律して他の国よりも治安が良かった。
例えばひったくりや泥棒が現れるイベントという者が存在する。
その対象はランダムであり、プレイヤーが狙われる場合もあればNPCがその被害にあう事もある。
時には通り魔に襲われるという命に係わるイベントも存在するが、帝国内でそれらの事件の発生率は低い。
それ故にこの帝国に拠点を持つプレイヤーは多い。
反面拠点の購入、維持費には相応の金銭が必要となるためこの町に住んでいるプレイヤーは金持ちが多い。
そしてそれを狙う盗賊プレイヤーもかなりの数だ。
治安がいいからこそ、水面下では犯罪者が集まっているというのは皮肉な話だろう。
ちなみに最も治安が悪い国は聖国だといわれている。
「そんんじゃ、乳酸菌の情報と食料の確保を手分けしますか。
俺は情報、ソシエとモミジは食料の買い出しと宿の手配。
たのんだぞ」
「そっちこそ気を付けてね、そんじゃモミジ。
いこう……か……? 」
ロリクスが役割分担を提案し、ソシエがそれに納得してモミジに話しかけた際に問題は起こった。
モミジがいない。
「……迷子? 」
「いや、あの子小さいけどさすがにそれは……ないわよね」
「とりあえず俺は情報とモミジの捜索。
そっちは食料と宿の手配、あとモミジの捜索。
集合は5時ごろにここでな」
ロリクスは広場の時計台を指さしてソシエも了承する。
こうして乳酸菌探しの旅にモミジの捜索が組み込まれた。
「ソシエー、ロリコンー」
一方モミジはしっかりと迷子になっていた。
人の多い帝国で一度はぐれると合流するのは難しい。
そのため集合場所を用意しておくのがセオリーだが、そのことを失念していたためモミジは地道に探すしかなかった。
「……空に向かって【無の衝撃】でも撃ったら気付いてもらえるかしら」
物騒なことを言出だしたがいたって平静である。
見た目は幼女とはいえ中身は立派に成人している。
さすがに迷子程度では落ち込むことはない。
「お嬢ちゃん、ちょいとお茶しようぜー」
「ナンパお断り」
世紀末な見た目をした大柄な男に声をかけられようともひるまない。
「おかえりなさいませお嬢様」
「チョコレートパフェ一つ」
イケメンぞろいの店でも羽目を外さない。
「お嬢ちゃん可愛いからサービス」
「ありがとーおじちゃん」
屋台でリンゴ飴を買っても……実のところかなり満喫しているようだった。