最悪のパートナー
ナイトメアが現れたことで場の空気は一変した。
先ほどまでモミジの無事を喜んでいた面々は、これからわが身に降りかかるであろう災厄を感じ取ってしまい恐怖から体が動かなくなっていた。
それは、ロリクスのようなマイペースと称される人間にも当てはまったらしく先ほどまでは果物を無遠慮に食べていたが今はその手も、咀嚼する口も止まっている。
代わりに頬を冷や汗が伝い落ちている。
またシティはモミジの生還に最も喜んでいたが、今は杖を構えていざというときは周囲にいるNPCの盾になるつもりでいる。
逆にレックスやソシエはすでにディメンションで逃げ出している。
他にもナイトメアの裸に見とれる者、自分の命はここまでだと諦める者、それはそれでご褒美だと息巻くものと、その反応は様々だ。
その中でもとりわけ物騒な反応を示したのは……。
「【プロミネンス】』
言うまでもなくモミジである。
一瞬、目の前に現われた存在が一体何なのかわからなかったが直ぐに理解したのだろう。
アイテムボックス、メニュー欄に表示されている項目を素早くタップし、【聖者の錫杖】と呼ばれる杖に分類される武器を二本取り出して構えた。
そのままの勢いでスキルを発動させる。
【聖者の錫杖】、その効果は実態を持たないゴーストなどのモンスターに対するあらゆる攻撃の威力を1.5倍にするをいうものだ。
「おや危ない」
しかしその炎を受けてもナイトメアはけろりとしていた。
周囲のプレイヤー、NPCはそれ相応のダメージを受けたものの死者は出ていないのがせめてもの幸いというものだろう。
「忘れましたか?
契約で私たちは互いに危害を加えることはできません」
ナイトメアは相も変わらず全裸で優雅に一礼して見せた。
それを聞いてモミジは何かを諦めたのか、先ほどまで自分に被せられていた布団をナイトメアに投げつける。
その表情は悔しさと恥ずかしさに耐えるかのような、今にも泣きだしそうなものだった。
「覚えてなさいこの変態! 」
「くくく、楽しみにしていますよ。
マスターが仕返ししようとから回る姿を」
「ぐ……減らず口を……」
「大丈夫ですよ、さすがにマスターの尊厳を失うようなまねはしませんから」
ナイトメアは、今自身が全裸で大衆の面前にいるということの意味を理解したうえで言っている。
理解したうえで、この方法が一番マスターの精神面にダメージを与えることができると考えての行動だ。
つまり、ある意味モミジの天敵といっても差し支えのない最悪のパートナーが誕生したということになる。