レベルアップからのスキル
レベル、というのは言うまでもなく戦闘力を表す数値の事だ。
例えば生まれたばかりの赤子や、初めてドミナスオンラインを始めた人間はレベルが1からスタートする。
そこから成長するにつれてレベルが上がり、時にモンスターを狩る事でレベルが上がる。
その成長率は職業に依存し、前衛職の剣士はモンスターにとどめを刺すことが多いので上がりやすい、とされている。
実際は魔法使いと剣士では同じ数のモンスターを同じように狩ってもレベルの上がり方は違う。
端的に言うと、最終的に国と渡り合える戦力を有する魔法使いがあふれてしまっては大変だという運営の判断で魔法使いの成長に必要な経験値を増やされた。
そのため、レベルをカンストさせる時間が魔法使いの場合は膨大だ。
剣士は現実の時間で1年もあればレベルそのものはカンストさせられる。
そこからスキル上げなどが待っているのだが、それは予断としておく。
それに対して魔法使いは現実の時間で2年から3年の時間がかかる。
そこから魔法使いもスキル上げなどが必要になってくる。
ようするに、ゲームを楽しむだけなら剣士などで前衛職を選び、魔法が使いたければサブ職業で魔法使いを選択。
もしくは殴って撃てる賢者を選択するべきという考えが浸透してしまった。
そのため、魔法使いプレイヤーは地雷という根も葉もない迫害が始まり、一部の剣士プレイヤーは魔女狩りと称したPK、プレーヤーが操るキャラを殺してその装備やアイテムを奪うという行為を始めるに至った。
さすがにそれはまずいと判断した運営がPvPとよばれるプレイヤー同士の戦闘には互いの承認がないとおこなえないというシステムを組み込むほどだった。
しかし、このシステムを全エリアで適用するとゲーム性が損なわれるという意見が多く出たため、【街】や【村】のようなエリア内での戦闘限定でPvPシステムを盛り込み、PK禁止エリアを設立するという措置にとどまった。
もっともPK禁止エリアも、初心者の集まるダンジョンやフィールド限定で上級エリアや中級エリアではPKは盛んに行われ続けた。
幸いだったのは、ドミナスオンラインの知名度とゲーム性が人気を博していたことであり、魔法使いプレイヤーを激減させるだけでプレイヤーの減少にはいたらなかったことがあげられる。
そして、ゲーム配信終了間際になって一人の破壊神ともいえる魔法使いが誕生した。
言うまでもないが楓ことモミジの事である。
モミジは、実はスキルを先にコンプリートさせた変わり種だ。
普通であれば、レベルを上げてからスキルを育てるという手法がとられる。
その理由は、スキルの中にはレベル制限が存在するため一定以下のレベルでは使用不可能なものがあるためだ。
しかし、モミジは魔法使いとしての完成を目指したためスキルを先にコンプリートしてしまった。
そして、先ほどアトラシアとの戦争に勝利したことで莫大な経験値を得た。
それによってモミジのレベルも頭打ちとなった。
「これであの魔法が打てる」
喜々として杖を振り上げるモミジを周りのプレイヤーがじとりと見つめる。
モミジの表情と打って変わって、プレイヤーたちの表情は暗い。
「あれ以上の威力の魔法があるのか……」
プレイヤーの嘆きにこたえるようにモミジはその魔法を展開しようとしたのを剣士が一斉におさえこもうとするが、その対応もむなしくモミジの魔法で辺り一帯が吹き飛んでしまった。
PvPの承認をした者がいなかったのが幸いというべきだろうか。
モミジの放った魔法の被害は、小国レンド所属の馬車と御者、そしてアトラシアの領土の一部が消し飛んだだけだった。
「さすが【無の衝撃】、すっごい威力」
【無の衝撃】、属性を持たないがゆえに防げない魔法とされている。
その効果は、その時々で変化するが共通点は高速の振動で原子同士のつながりを崩落させる。
つまりどれだけ強固な防具を身にまとっていようとも防具もろとも肉体を原子まで分解してしまい、そのおまけと言わんばかりに属性魔法の追い討ちがかかる。
馬車の中で発動した【無の衝撃】の場合は火属性の魔法が発動したらしく、クレーター状にえぐれた地面の底はガラス状に凝固している。
「こんなんPvPで出されたら俺なくわ」
「同じく」
「おれ、速攻土下座してリタイアするわ」
剣士たちは次々にifの話を始めたが、モミジはどこ吹く風でクレーターから這い上がり、続けて【無の衝撃】をクレーターに打ち込んだ。
当然だがクレーターの底にはモミジのフレンドが何人も残っている。
勘の良い、もしくは付き合いの長いフレンドは既にクレーターから脱出していたが、そうでない者たちは第二波の直撃を受けていた。