深層世界
意識が途切れた後、奇妙な表現だが意識を失った状態でモミジは意識を取り戻した。
それは宛ら夢の如く、ふわふわとした情景の中でぼんやりとした自意識を保っているとでもいうのだろうか。
モミジはその場に立ち尽くすのみだった。
『初めましてお嬢さん』
それ故に、その声を認識するまでにモミジは幾何かの時間を必要とした。
「はじめ……まして……? 」
言葉を一つ認識したことでモミジの意識は平静を取り戻し始める。
先ほどまでは陽炎のようだった情景もいつしか畳張りの茶の間に代わっていた。
『気分はいかがですか? 』
「なかなか愉快よ」
モミジはちゃぶ台の前に座り、いつの間にか置かれていた茶碗に入った液体をのどに流し込む。
相手の姿を確認することはできないが、どこかに存在する。
その事を中心にモミジは現状の理解に努めていた。
まず考えたのは今自分がいる場所。
そこは見慣れたモミジの家であり、茶の間の外からは鳥のさえずりまで聞こえてくる。
しかしそれはどこかわざとらしく、まるでアニメかゲームのような白々しさがある。
次に考えたのは、ここに来るまで何をしていたか。
言うまでもない、数万の大軍を前に友人たちと防衛戦をしていた。
では、なぜここにいるのか。
そこまで思い出して、自分がナイトメアの攻撃を受けたことを思い出す。
そうして自分が今どこにいるのかを悟った。
モミジが今いる場所、それは自分の深層心理の世界だ。
ナイトメアの設定に『憑依された者の意志は心の奥底で眠りにつく』とされている。
自分がなぜ意志を持って行動できるのかは不明だが、この声の主はおそらくナイトメアだろう。
『大正解です、聡明なお嬢さん』
「そう、じゃあ早くここから出してもらえない? 」
『それは、あなたの回答次第といったところでしょうか』
「私の回答? 」
モミジは訝しげに首をかしげる。
ナイトメアと思しき声は、モミジのその疑問に答えることなく言葉を続ける。
『あなたはどちらの、どこの世界を望みますか? 』
その言葉を反芻しながら深く、深く考える。
どこの世界、先に挙げたどちらのという質問は間違いなく【地球】か【ドミナスオンライン】の世界かということだろう。
ではどこの世界という質問は、その中には今いるナイトメアの世界も含まれているのだろうか。
「今は、ドミナスオンラインの世界を選ぶわ。
天涯孤独、将来に希望もなく、思い出なんてものはない。
けれど未来に希望がないのはこの世界も同じ。
だったら多少なりとも友達と呼べる存在のいるドミナスオンラインを選ぶわ」
『では問2。
あなたの友達は私が皆殺しにしました。
あなたの体と魔法を使えば簡単なことです。
それでも意思は変わりませんか』
「かわらない。
こっちの世界のが面白いということに変わりはない」
『問3。
それは好奇心を優先するということですか』
「正解。
私は冒険が大好き」
「問4。
あなたは嘘吐きですね」
ナイトメアの声が機械音から、肉声に変わった。
その声は聴きなれた、モミジの物だった。
「大正解」
その肉声に、モミジはあわてることなく答えた。