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開戦

(勢いで引き受けたはいいけど……)


 現在2万の大軍を前にしてモミジは悩んでた。

 普通のアンデット、つまりはゾンビや首なし騎士、ヴァンパイアと称されるタイプの敵は魔法使いという職業にとって大した敵ではなかった。

 しかし、ナイトメアやゴーストと称されるタイプの敵は、モミジ含む魔法使いの天敵ともいえた。

 その理由の一つとして肉体をもたないことにある。


 たとえば前述のゾンビやヴァンパイアは肉体がある。

 それは【無の衝撃】や【無の衝撃波】の前においては致命的な弱点となる。

 なぜならそれらの魔法は【全ての属性を同時展開する事で空間に振動を発生させて原子同士のつながりを断ち切る】【衝撃を発生させる際に周囲の魔力を巻き込んで強制的に魔法を発動させるため並大抵の肉体は崩壊してしまう】という二つの説明文にある。

 この説明の通り、肉体がある相手にとって【無の衝撃】系の魔法は一撃必殺にも等しい。

 しかしこれはゲーム時はフレーバーと呼ばれる、つまりは意味のない一文だったが、ゲームそのものが現実となった今ではこれも現実のものとなっている。

 そしてこれはモミジがいまだに気づいていないことだが、【無の衝撃】で倒した敵はドロップアイテムを残さない。

 その理由はドロップアイテムさえも【無の衝撃】で分解してしまうためだ。


 話を戻して、現在2万の大軍を率いているナイトメアというモンスターは悪夢が具現化したものである。

 これはあくまで具現化、可視化されただけであり、肉体をもたないモンスターだ。

 そのため十八番の【無の衝撃】で蹴散らすというのはできない。

 仮に後方の敵をなぎ倒せても、ナイトメア5体は残ってしまう。

 そうなると、2対5の戦いだ。

 すきを突かれて1対でも突破されると後ろに控えている剣士やハンターでは少々荷が重い。

 その理由も肉体をもたないが故に、銀製かミスリル製の特殊な武器でなければダメージを与えられないという縛りが存在しているからだ。


 もっとも、後方で控えている者たちの中にはそういった武器を所持している者もそれなりにいるし、モミジもそれを把握している。


 だが最大の問題は、ナイトメアが飛行可能モンスターであり、憑依型モンスターでもあるいうことだ。

 つまり、剣士の攻撃は届かずうっかりとり逃せば誰かに憑依して逃げられてしまう。

 もし憑依したのが元プレイヤーならばメニュー画面のステータス欄から状態以上として表示される。

 しかしそれがNPCだった、一般市民であればその方法は使えない。

 そうなってしまった場合はモミジたち魔法使いの【リード】を使用してステータスを覗き見るしかないが、市民全員に魔法を行使するというのは現実的ではない。


「【プロミネンス】じゃ厳しいし……【サンクチュアリ】しかないか。

ソシエ、後ろの大軍は任せてもいい? 」


「別にいいよ。

数的に……3回くらいかな」


 まずモミジが考えた先方は【サンクチュアリ】という魔法でナイトメアにダメージを与え、同行しているソシエがほかのモンスターへ【無の衝撃波】を放つというものだった。

 この【サンクチュアリ】という魔法は、ナイトメアのような肉体をもたないモンスターにのみ有効な魔法であり、対象が限定的なためかダメージだけで見れば【無の衝撃】を上回る。

 しかし、デメリットとして先述の通り肉体をもつモンスターには効果がないこと、そしてリロードタイムが極端に長く再使用まで24時間かかる。

 さらに【無の衝撃】同様レベル400代に達した魔法使いでない限り使用できず、魔法使いスキルも極める必要があるため使用頻度は極端に少ない。

 そして、極めつけというべきが【サンクチュアリ】はゲーム内で最もMPを消費する魔法だった。

 たとえば現在のモミジが【無の衝撃】を一度放つと5000近いMPを消費する。

 それはモミジのステータスに照らし合わせたら5発放つことができる消費量だ。

 それに対して【サンクチュアリ】の消費MPは23000、一度放つと【無の衝撃】を放つこともできなくなる。


 そのため、発動に対するデメリットが多い。

 しかしこの状況を打開できる方法はほかにない。

 特に、ソシエがいる為撃ち漏らしなどの可能性は低い。


 ソシエというプレイヤーは最初期の魔法使いである。

 その為、魔法使いが公式チートと呼ばれた時代にある程度レベルを稼ぎ、修正後も自由気ままなプレイが可能だった。

 そして、最初期のプレイヤーのため魔法を使うことに特化しており、それ以外のステータスは壊滅的といえる数値になっている。


 モミジと比べてもそれは顕著で、魔法に関するステータスだけ見ればモミジの1.5倍だ。

 その威力で、【無の衝撃波】を3発撃てば2万の大軍は消し飛ぶというのはソシエ自身の談だが実際は1発で8割、残りをまとめて消し飛ばすという意味での3発であり、実際は戦力過多といっても差し支えない。


「十秒後に始めるよ」


 モミジが杖を取り出して【サンクチュアリ】の詠唱を始める。

 その瞬間、モミジの全身から魔力と汗が吹き出し、広範囲の地面が光り始めた。

 それに合わせてソシエが【無の衝撃波】の詠唱を始める。

 ソシエ自身からも膨大な量の魔力があふれ出ているが、モミジの5分の1ほどでしかないため、感じ取れる者はいなかった。

 正確にいうのであれば、ソシエが放った魔力量でも赤子であればショック死しかねないものだったが、モミジが放った量の前ではそうもいかない。

 現在王国内では国民全員がモンスターの襲撃を知っていたが、モミジの魔力で自らの置かれた現状を理解したというのは皮肉な話だ。


「【サンクチュアリ】! 」


「【無の衝撃波】! 」


 こうして、のちの世で【魔道悪夢決戦】と呼ばれた戦いは幕を開けた。

 またの名を【魔道師による虐殺】ともいう。

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