談笑?
「これはこれはご丁寧に。
魔法使いのモミジと言います。
今後とも、互いに害のない範囲でよろしくお願いしますね」
「えぇ、私としても害よりは利益があったほうが嬉しいですからね。
是非ともよろしくお願いします」
まずはモミジが先制した、と思いきやあっさりそれを返すアンドレイ。
その態度にモミジは何かを感じ取りにやりと笑みを浮かべた。
対するアンドレイもにやりと口の端を釣り上げる。
「いやはや、何とも面白い人ですねえ。
私は暗に関わりたくないと言ったつもりですがわかりませんでした?
馬鹿の息子はバカなんですか? 」
「いえいえ、もちろん気づいていましたとも。
でもここで強力な戦力を逃がすバカはいませんよ。
そのためにもわざわざどこの馬の骨とも知れない糞ガキに土地と家を用意したんですよ?
あぁそれとも実は頭いいと思っているだけの馬鹿でそのことに気づきませんでしたか? 」
「あっはっは、面白いことを言いなさる。
腹のうちに毒を抱えることを、戦力の増強というんですかこの国は。
私の国では自殺と言いましたがね。
それに危険と分かっている相手を挑発するのはどう考えても馬鹿のすることでしょう? 」
「おやおや、ご自身が馬鹿という事を否定されないのですか?
いやなに、最悪貴方一人くらい天才の私が打ち取って見せますよ。
どんな方法がいいですか?
素っ裸で市中引き回しですか? それとも素っ裸で四肢をもいで民衆に任せますか? 」
「あらあら、自分で天才なんて。
私は自分の事を馬鹿だと思っていないけれど天才なんて言い張るほど厚顔無恥ではないんですよね。
それに、こんないたいけな少女を裸にひん剥くだなんてとんだ変態ですね」
「おやおや、先程から青筋が浮かんでますよ?
この程度で怒るほどあなたの堪忍袋の緒は緩いんですか?
あぁ失礼、だからあんな馬鹿な元国王の挑発に乗って手の内をさらしたんですね。
いやー頭の悪い癖に自覚していない愚か者は扱いやすくて助かりますよ」
二人の会話をそばで聞いていたラインは今すぐ逃げ出したい気持ちを抑え、部屋に備え付けられたティーセットでお茶を入れ、二人に差し出した。
その結果、いったんは二人の喧嘩は収まったもののお茶を飲み干すと再度会話が始まってしまった。
「さすが、ラインのいれるお茶は美味しいね。
低級でも入れ方によってここまで変わるんだね。
低級でも」
「ラインは良いお嫁さんになりそうね。
どっかの性格の悪い男みたいなのに引っかからないといいけれど」
「いやいや、安心してくださいモミジさん。
ラインの面倒は僕がしっかり見ますんで」
「あんたみたいな性悪に引っかかってほしくなっていってるのよ」
「なんとひどい、僕のような品行方正を絵に書いたような男は他にいませんよ? 」
「絵に描いた餅って言葉知ってる?
あんたに任せるくらいなら私が面倒見るわよ。
同じ魔法使いのよしみでもあるしね」
「豚に真珠ってご存知ですか?
貴方に任せるくらいなら野良犬に任せた方がまだましな嫁ぎ先を見つけられますよ? 」
この間、二人は始終笑顔だった。
ライン自身はそれが怖くて口を出せなかったが、よく見ると二人とも目元までしっかり笑っている。
それは二人が普段使っている外向けの笑顔や、作り笑いではない。
見方によっては楽しそうに談笑しているようにしか見えない。
正確に言うなら会話の内容を聞かなければといったところだろうか。
「まあ雑談はこのくらいにしましょうか。
それでアンドレイの本音は? 」
「僕としてはこの国に居を構えてほしいですけどね。
でもいやでしょう?
だったら別荘地くらいに考えてほしいですね」
二人の喧嘩もとい雑談は唐突に終わりを告げた。
モミジの切り出した内容にアンドレイが返し、そこから空気は一変した。
モミジとアンドレイは、二人にとっては和やかな空気だったが張りつめた空気に変わった。
ただしラインにとっては全く変化ない。
「それは構わないわ。
むしろラインと話したい事も結構あるから私はちょくちょく来るつもりよ。
馬鹿さえいなければいい街だと思うわ。
子供も元気だし活発だしね」
「えぇ、それは同意します。
あのバカ率いるゴミどもがいなければ素晴らしい国です」
「だからあんな馬鹿になったらあの城潰すわよ」
「むしろ今すぐにでもお願いします。
あんな悪趣味なのは趣味ではないんで潰して新しく建ててくださいよ」
徐々に空気が元に戻っていることに二人は気づいているのかいないのか。
そのことは空気の変化に気付いていないラインに知る余地はなかった。