約束
モミジがロリクスと魔法の練習という名の虐殺を終えて街に戻ってからはそれなりに平穏な日々が続いた。
時折酔っ払いや、子供、人さらい、スリ師、子供、兵士、国王、子供等に絡まれていたがそれ以外は至って平穏だった。
時に国王や兵士がモミジにちょっかいを出した際はその場にいた国民総出で、不敬罪など無視して殴り倒されていたほどである。
そしてそれを罰せようにもラインと国王の息子であり、駄目な王を反面教師として育った現王子が国民に対して『国王や兵士が馬鹿な真似をしたら殴ってでも止めるように、最悪首をはねてもいい』と御触れを出してしまったためどうする事も出来なかった。
また人さらいやスリ師に至ってはモミジにその場で殴り倒され、酔っ払いはロリクスを身代わりと差し出すことで難を逃れている。
唯一手出しができなかった……というよりはどうにもならなかったのが子供であり、年端もゆかぬ少年少女たちの遊び相手として見定められてしまったモミジは3日間遊び、2日間は魔法の勉強をするという体制をとるようになった。
これは、モミジ自身も気付いていないことだが彼女は子供が好きだ。
それは彼女自身の精神年齢の低さに起因しているのかもしれない。
モミジは食玩欲しさにお菓子を大量に買い込みしばらくの間三食御菓子を食べて体重を増加させたり、おまけ欲しさにペットボトル飲料を大量に買い込んで冷蔵庫を圧迫したりと子供のように気ままに生活していた。
それらに合わさり、今の彼女は小学生と見紛う体躯をしているため子供たちの遊び相手としては丁度良かった。
また大人たちはモミジがどれほど危険な存在か知っていたが、同時に兵士たちを1人も殺すことなく、むしろ兵士たちの命を救った存在として崇める者もいたほどだった。
そんな彼らが、子供たちをいさめるかと思いきやこれは意外なことにそうはならなかった。
その理由としてはモミジが聞けば憤慨するかもしれないが、大人たちは子供の中にモミジが紛れていることに気付かなかったからだ。
中には気付いた者もいたが、その者はモミジの表情から心の底から楽しんでいると思い口を出すことはなかった。
そうして、ひと時の平穏満喫していたある日、モミジのもとをラインが訪れた。
「遅くなって申し訳ありません。
まず約束していた家を用意させていただきました。
近隣諸国に依頼したところ、全部で17の国が城下町と国境付近の村にそれぞれ邸宅を用意してくださるとのことです。
また我が国といたしましても、この街に手一軒の屋敷を提供させていただきます」
「え?
いや、ちょっとまってねえ。
17の国が家と土地を2つも用意してくれるってこと!? 」
「あ、いえ内を含めて18の国が2つの土地と家を提供させていただきます。
合わせて国とは認められていませんが、自治領の方々が20ほど。
そちらは1つが限度ですが」
平たく早い話が、モミジはこの短期間で56の土地と家を手に入れしまったことになる。
「それと合わせて各々信頼できる従者を20人程派遣してくださるそうです」
そして合わせて760前後の従者を貰ったことになる。
この時モミジは、ライン含めて気づいていないがこの従者はそれなりに腕の立つ人材であり、全員女性である。
中には亜人と呼ばれる、ゲーム時代には絶滅してしまっていたエルフや獣人も含まれている。
「あ~これはそのうち御礼しに回らないといけないかもしれないれ……」
「暇が有ればで構いませんのでお願いします。
外頼まれていた狩場についてですが、ロリクスの協力もありレベル毎に分けておきましたのでこれを参照してください」
そういって手渡した資料は電話帳並みの暑さがあり、モンスターのレベルや攻略情報が細かく書かれていた。
「ありがとう、ずいぶん分厚いねぇ」
「あのバカたちがしでかしたお詫びとしては当然です。
それと、あのバカ王は本日付で退任、今後はあのバカの息子が王となります。
長年馬鹿の背中を見ていたため、こうはなるまいと成長した信頼に足る人物です」
それを聞いてモミジの表情が変わる。
顔をしかめているというよりは何かを考えている表情だ。
「その王子と話してみたいな……」
「そういうと思って連れてきました」
ラインがそういうと、彼女のすぐ後ろに控えていた兵士の一人が兜を脱いでモミジの前に跪いた。
「お初御目にかかります、この度国王の座に就くことになりました。
アンドレイ・ローダスと申します」
そう名乗った男は金髪碧眼の美青年だった。