初心者組
「わきゃー! 」
「やばいやばいやばいやばい」
「ぬわー、あっー、おうふ」
【ソラヌシ遺跡】と呼ばれるダンジョンの内部で初心者三人組は悲鳴を上げていた。
現在彼らはアラームと呼ばれる罠に苦戦している。
それはダンジョンにいるモンスターを片端から呼び寄せるという凶悪なもので、高レベルダンジョンでは高確率で設置されておりレベルカンスト組でさえ死亡する可能性が高い罠だ。
「ソケットうしろー」
「俺……帰ったらレナに結婚申し込むんだ……」
「あ、お断りします」
「よかったね、フラグは未建造だよ」
「じゃあソケット、田舎で二人でパン屋を営もう」
「お断りします」
「……我が人生それなりに悔い有り」
余裕があるのかないのかわからない会話を繰り広げているが、HP的には少々厳しい状況にある。
そのことを理解しているのか、ダイゴは盾を構えてソケットは矢を放ち、レナは剣と槍で牽制しながら狭い通路へ後退していく。
そしてある程度、通路に近づいたところでレナはポケットから一つの小瓶を取り出す。
それはモミジが持たせていた秘密兵器であり、魔法薬作成のスキル上げで作成したアイテムのあまりでもある。
「走って! 」
レナが小瓶を投げると同時に叫びながら走る。
そして小瓶が地面に落ちた瞬間、パリッという小さな音と共に小瓶の落下地点周辺にいたモンスターが倒れた。
その薬の名前は【気化麻痺薬】といい、本来は直接吸収させなければ意味のない麻痺薬を気化させることで呼気吸引を可能とした薬だ。
特性上気化しやすく、持続時間も短いが低レベルダンジョンである【ソラヌシ遺跡】のモンスターを足止めする程度の効力は十分にあったらしく、レナたちは無事ダンジョンから脱出することができた。
「本当に死ぬかと思った……」
剣も盾も投げ出して、鎧が汚れることも気にせず地面に倒れこんだダイゴの上にレナが腰かける。
それに続いてソケットもダイゴを椅子代わりに、弓とナイフに痛みがないか確認を始める。
「おい……」
「重くはないでしょう? 」
「ちょっと鎧ぬぐから直接腰かけてください」
「……ダイゴの生殺与奪権は私たちが握っているってわかってる? 」
「わかってる、けどレナは優しいからそんなことしないと信じてる」
「じゃあ私がやるね」
それは、モミジがいたときには見ることのできなかった光景だった。
この三人に取ってモミジは良くも悪くも教師であり、素の自分をさらけ出すことを無意識化で嫌がっていた。
「それで……どうしよっかこれ」
レナは周囲を警戒しながらダンジョンの入り口を指差す。
そこには石人形や、スライム、動物を混ぜ合わせたような獣とさまざまなモンスターが初心者三人組が入ってくるのを待ち続けていた。
ダンジョンに住み着いているモンスターは基本的にダンジョンから抜け出すことはできない。
それは目の前に出口があったとしても変わらない。
「期限まであと15日くらいあるから一度街に戻って体勢を立て直そうか」
ダイゴの言葉に二人は反論することなく頷いた。
「あーかてねー」
女性二人に跨られたまま、ダイゴは小さくぼやく。
ダイゴの脳裏にはPKを消し炭にした時のモミジの姿があった。
そして、その心にはいつか必ずモミジを超えるという覚悟があった。