魔法
「ロリクス~、ちょっと狩りに行きましょー」
モミジの間の抜けた声が宿に響く。
しかし呼びかけられたロリクスとしてはそれどころではない。
それは言うまでもなく、【仲間殺し】【職業:フレンドリーファイア】【敵より味方の被害が大きい】【無差別爆撃】と揶揄される魔法使いの最高峰であるモミジに一緒に、つまりパーティを組んでモンスターを狩りに行こうと誘われたことに起因する。
現在のロリクスのレベルは500であり、HPに至ってはモミジの4倍を超えている。
その数値はレベル300代のボスキャラをしのぐ物だが、魔法使いの火力の前では無に等しい。
特に火力特化型のモミジが相手ではその倍あったとしても、1撃耐えることができたら上等と言えるだろう。
これがもし、パーティ内であれば攻撃は当たらない使用であれば問題はなかっただろう。
そうでなくても、攻撃範囲を運営側が考えて設定していたら、それこそ賢者のように状況に応じて使い分けることのできる単体攻撃魔法なんてものがあれば話は違っていただろう。
けれどモミジの賢者スキルは、サブ職業の制限のため本職の人間の半分しか取得できていない。
そのため一定以上のダンジョンに潜るとなると、それらのスキルは使用されない場合が多い。
つまり、ロリクスという肉盾もろとも広範囲を焼き尽くす魔法を使う可能性が高い。
「せめて、せめてこの剣だけは……」
ロリクスは腰の剣を抱きしめながらモミジに視線を向ける。
ドミナスオンラインの死亡によるペナルティ、通称デスペナは一つが獲得経験値の減少とそれに伴うレベルの減少だ。
そしてもう一つは、PKで死亡した場合PK側は殺した相手の所持金の1割と武器か防具から1つ、もしくは所持アイテムの中で低レア度のアイテムを3つまで奪う事ができる。
ロリクスが抱きしめている剣は初心者だった頃に手に入れた物で性能は序盤にしては高い性能、程度ものだ。
しかし彼はレベルがカンストした今でもその剣を愛用し続けている。
それは愛着というよりは執着というべきものだったが、その理由をロリクスが語ったことはない。
「……もしかして肉盾にしてほしいの? 」
モミジはロリクスの行動からそう判断した。
肉盾というのはゲーム用語で、その場にいる他のキャラクターを盾にする事をさすが、魔法使いなどの耐久力の低いプレイヤーは剣士などの前衛職ににその役割を頼むことが多い。
しかしここで問題になるのが魔法使いの強みでもあり欠点でもある攻撃範囲だ。
肉盾を行った場合、間違いなくプレイヤーの体力は減少している。
そこに上級のモンスターでさえ一撃で屠る威力の魔法を食らえば、あとは察しの通り消し炭である。
これも魔法使いが倦厭される理由で単体では紙装甲、パーティでは危険物という扱いだ。
ちなみにモミジのようなカンスト組は別としてラインのような中堅魔法使いであれば一撃放った後にはリロードタイムと呼ばれる時間が存在する。
これは魔法を連射できないようにしているシステムで、例えば【プロミネンス】であれば平均して15秒のリロードタイムがある。
この間は同じ魔法を使う事ができず、さらに一部の魔法には発動後に硬直J感が用意されている物もある。
つまり一撃の威力は高いが売ったら硬直してマトになる。
その上装甲が紙なのですぐに死ぬ。
挙句パーティプレイはできない。
そのためモミジのような変態を除いてそろプレイで魔法使いを選ぶ人間は、いない。
「今回は私の魔法の実験に付き合ってほしいの」
「魔法の実験? 」
「そう、スキルではない魔法の使い方を覚えたからね。
これの使い方を覚えておきたいし、ゲームとは違ってリロードも見れないから感覚で覚えないと」
ゲームであればメニュー画面のスキル項目からリロードにどれだけ時間が掛かるか表示されていた。
それはこちらの世界でも同じだったが、魔法を魔法として使う場合はメニュー画面には表示されない。
そもそもスキルとは別の存在として扱われているためだ。
しかし、それは利点でもある。
先ほどのたとえを続けるならば【プロミネンス】は一度発動すると15秒のリロードをしなければならない。
しかしモミジは魔法使いと賢者のスキルでそれを5分の1まで減らしている。
つまり3秒ごとに【プロミネンス】を発動できるという事だ。
そこに魔法としての、スキルではない【プロミネンス】を発動することができる。
この魔法の【プロミネンス】もリロードは3秒で行われていたことが判明したため、実質1.5秒毎に【プロミネンス】を発動できるようになったという事だ。
「連射可能なミサイルってどう思う? 」
モミジの説明を聞いたロリクスは神妙な顔つきでモミジに問いかける。
連射可能なミサイルしかも自律走行可能で瞬間移動もできる、のちにロリクスはこの表現を多用し、モミジの締め上げられたのは余談である。