約束
それからしばらくして、これ以上魔法を行使することはないと考えたのかロリクスが、更に1時間ほどして、ラインが馬に乗って戻ってきた。
「おかえり」
ロリクスが片手をあげてラインを迎える。
対してラインはそれにこたえることができないほどに、思考を巡らせていた。
(なにあれ、一時間でこれって30秒持てばいい方とかなんの冗談よ。
5秒も持てば上出来じゃない。
というかこの跡から見ると一発の魔法でこれ?
規格外とかそういうレベルじゃないでしょうこれは)
「頬ひきつってるぞ」
ひたすら現状を把握しようとしていたラインはロリクスの一言で自分が無意識のうちに笑顔を作っていたことに気付く。
また、頬に手を当ててみれば汗と涙で湿っていたことを理解し、人は恐怖心が限界に達すると笑顔と涙をこぼすものだと痛感した。
「すみません、モミジ様。
あのバカどもは私がよく言い聞かせますのでこの国を滅ぼすのだけは勘弁してください」
それからすぐに馬から降りて、地面に額をこすり付ける。
ラインがこの国に囲われている理由の一つに、ゲーム時代にこの国を拠点にしていたという事と、周囲に生息している植物が彼女の得意とする魔法薬の精製にもっとも適しているという二つの理由があった。
理由が理由だけに、国を捨てることは簡単だが、この国が無くなってしまえば彼女は別の拠点や採取所を探さなければいけなくなる。
それはできれば避けたいところだった。
「うーん、でもねぇ。
私、あの国王や騎士団の責任者さんには少なからず腹を立てているんだよね」
「じゃあ殺します!
あの二人ぶち殺して最高の人材をその地位につけますのでどうか! 」
モミジが意地の悪そうな笑顔を浮かべてそういうとラインは地面が陥没するのではないかという勢いで額を地面に打ち付ける。
現在ラインが発している言葉は不敬罪か反逆罪が適用されてもおかしくないものだが、そのことを指摘する者は一人もいない。
むしろその場にいる関係者は全員が同じことを考えている。
「殺したところでその身内に恨まれたら面倒だし……かといって一族皆殺しなんてのは趣味じゃないのよね」
「……何でも言うこと聞きますからお願いします」
「なんでも? 」
「なんでも」
なんでも、という言葉を聞いてモミジは笑顔を見せる。
その言葉を待っていたと言わんばかりの笑顔だ。
「じゃあそうねえ、私は今初心者を育てているんだけれどそれは知ってる? 」
「はい、ロリクスがあなたにお願いしているところに居合わせてたので」
「その初心者を鍛えるために狩場を探しているんだけれど、剣士やハンターを育てるための場所をあまり知らないのよ。
それを教えて。
あと拠点が欲しいから適当な国に家を用意してほしいかな。
あ、あとそこの馬鹿達が私にかかわらないこと。
下手にちょっかい出してきたら殺しちゃうよ」
「全力で対応させていただきます! 」
それはラインのみではなく、その場に居合わせた関係者全員の言葉だった。