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才能値とスキルと職業と

ドミナスオンラインというゲームは普通のゲームと変わっている点がある。

それはキャラクターメイキング、つまりゲーム世界での自分を作ることから始まっている。


キャラメイク自体はどのゲームでも存在するため、さほど珍しくないが髪型や色、体型などの組み合わせが無限にあるので各々好きな外見で冒険を楽しんでいる。


中には醜悪な外見で冒険を楽しんだり、逆に少女のような外見でポーズを決めてちやほやされることのみを楽しむものもいたりと様々だ。

そして、このゲームの特徴であり、変わっていると称される部分がここにある。


従来のゲームでは、スタート前にポイントを割り振ってステータスを決めるというシステムが一般的だった。

そしてそのステータスに応じた、もしくは後述する技能の成長によってスキルを取得する、ここまでが従来のオーソドックスなキャラメイクにおける技能値の割り振りと呼ばれるものだった。


しかし、ドミナスオンラインではその方法は使われない。

プレイヤーはスタート時全技能一律10という段階からスタートする。

この数値を分かりやすく説明すると、二足歩行を始めたばかりの子供がオール5程度。

一般的な大人であれば筋力20で、それ以外は10に届くか否かというレベルだ。

筋力が30もあれば肉体労働者としては一人前と言われる。

これは余談だが、大国家に使える騎士の平均筋力は50前後とされている。


ここまで語ればわかると思うが、オール10のステータスは低い。

始まりの村と呼ばれるスタート地点の周囲に居るモンスターに簡単に負ける程度の実力だ。


しかし、それはレベルがひとつ上がるだけで劇的に変化する。

それはキャラメイク時の技能値の割り振りに左右されるが、よほど極端な割り振りをしなければまともに戦えるだけのステータスを手に入れることができる。


その割り振りがいわゆる【才能システム】だ。

ドミナスオンラインでは技能値、つまり筋力や防御力といったステータスに直接ポイントを割り振ることができない代わりに、才能値というものにポイントを割り振ることができる。


例えば筋力、つまり攻撃力に換算される技能値の才能にポイントを割り振ったとする。

この時最大値である100ポイントを割り振った者と、10ポイントだけ割り振ったものを比較するとこうかはわかりやすい。

レベルがひとつ上がった場合、後者は筋力が10から21にあがった。

それに対して前者は10から30に上がった。

ここまでわかりやすいのは最序盤のみだが、ようするに才能があればレベルアップ時のステータスの伸びがよくなる。

最も才能がなくともステータスはある程度までは育つので、よほど変な技能に割り振らない限り詰むということはない。


中には運のステータスに極振り、全ポイントを割り振った者もいたがカジノで金を稼ぎ、強い装備を揃えて、モンスターのレアアイテムを収集して商人として名を馳せたものもいる。


渚の場合、魔力の才能と魔法の威力を決める精神力、そして移動速度に関わる脚力に4:4:2の割合で割り振っている。

渚は高火力で乱射可能な高速移動砲台を狙って割り振ったのだが、その考えは幸か不幸か成功してしまっていた。


もっとも、移動砲台と呼べるようになるまでには紆余曲折あったが、そこは渚の努力の賜物とだけ言っておこう。

しいていうならば、彼女の努力を嘲笑う者たちが少なからずいたが1人残らず移動砲台の標的となったというくらいだろう。


話は戻る、この才能値の割り振りによって多少の差異はでるがそれなりの平等性を得ることに成功した。

それから運営は職業ごとのバランスを改善しようと躍起になった。


例えば剣士という職業。

名前のとおり剣を扱う事に優れた職業だが弓や槍も使える。

その特徴は近接戦闘で最高火力といえばわかるだろうか。

相手の懐に入り込んで、一撃のもとに相手を切り伏せる、というコンセプトで作られた職業なためスキルもそのように設定されている。

スキル、【一閃】は自分の目の前180度を武器で切り払うスキルで、剣士の数少ない範囲攻撃だ。

このスキルは最初から覚えられる上に終盤でも重宝する。

またスキル【投擲】を使えばナイフや、時には敵を投げつけることもできるので遠距離先頭もできなくはない。

それなりにバランスのとれた職業だった。


つぎにハンター。

罠を駆使してナイフと弓を使う職業だ。

コンセプトは上記のとおり、いわば狩人だろう。

代表スキルは【トラップ】既に仕掛けられた罠を見通すこともできるし、新たに仕掛けることも可能な技能だ。

これも【一閃】同様最初から覚えられるスキルでありながら、終盤まで使える技能だ。

また弓のスキル【ピンポイント】は序盤で取得可能ながら高威力を発揮できるため重宝された。

こちらもバランスは良かった。


問題は件の魔法使いにある。

高火力の人間兵器、そのコンセプトに恥じない特徴を持つ職業だった。

スキル【下級魔術】、下級の魔術を取得するというものだ。

魔法と魔術の違いはその難易度に起因するが、魔術より魔法のが難しくて強いと思ってもらえれば良い。


この下級魔術、使いようによってはものすごく強い。

例えばコップいっぱい程度の水を発生させる【アクア】という魔法がある。

運営の当初の目論見では飲み水の代わりに使えば、というものだったのだが機転の利くプレイヤーがこの魔法を使ってボスの低レベル撃破を成し遂げてしまった。

その方法は、ボスモンスターの肺に水を発生させるという方法。

この【アクア】という魔術は水を発生させる場所を問わないため出来た現象だ。

この方法を思いついたプレイヤーいわく「モンスターが水中でダメージ受けるの見て思いついた」とのこと。

このプレイヤーはほかにも様々な魔法の使い方で運営の胃に多大なダメージを与えていった。

例えば森のステージを下級魔術の【ファイア】と市販の油を併用して焼き尽くしてレベルを大幅に上げた。

などの行為をおこなった。


それからしばらくして運営はステージそのものに破壊不可能の設定を付与した。

元は戦争などのイベント時、森や村、家などが破壊されたらそれらしいかも知れないと考えていたそうだが、その裏をかかれた。

もっとも、戦争イベントの時限定でこの破壊不可能設定は解除されるためここぞとばかりに森を焼き払おうとする悪党は山ほどいる。


とにかく、魔法使いは最初の段階で得られるものが多すぎた上に、応用の幅が広すぎたため弱体化の措置がとられた。

今までは初期の段階で初級魔術をすべて会得できたものが、弱体化後はランダムで二つ。

更に【アクア】は手のひらにしか発生させられなくなるなどの措置がとられた。

それにあわせて弱体化以前からあった、筋力に下方ボーナス、つまり筋力が育ちにくくなるというデメリットが合わさって魔法使いという職業を選択する者はほとんどいなくなってしまった。

それもそのはず、序盤の魔法使いでは直接殴ろうものなら雑魚モンスターの攻撃であっという間に死んでしまう。

さらに遠距離からの攻撃で与えられるダメージはたかがしれており、強い魔法を覚えるまで時間がかかるとなってはよほどの執着がない限り選ばれることはない。


そんな魔法使いの弱体化から5年、まもなくドミナスオンラインの配信が終了すると告知されるまで。

新たな職業が追加されてなお魔法使いが強化されることはなかった。

ドミナスオンラインの評判は、悪くはなかった。

けれど無難や魔法が使えないファンタジーなどの評価も少なからずあったため、人気は低迷していった。


「っぷひゃ」


渚は牛乳を飲み干して思う。


(配信終了前に魔法スキルがコンプできてよかった)


彼女は難しい、厳しいと言われることに挑戦するのが大好きだった。

苦行に苦行を重ねたの末に強くなれると評判だったドミナスオンラインの魔法使いはそんな彼女にぴったりの職業だった。


(お風呂入ったらもう一度ログインしてみんなに報告しよう)


そう考えた彼女は来ていた服を脱ぎ始める。

今彼女がいるのは台所だが、田舎にある古めかしい屋敷で一人暮らしを満喫している彼女を咎める者はいない。


(ドミナスオンラインが終わったら次は何をしようかしら)


彼女の人生は順風満帆だった。

両親が亡くなり泣き明かした日々もあった。

就職に失敗して祖父母の稼業である骨董商の後継として金銭を稼いでいる身だが、それ自体は祖父母と両親の遺産があるため半分は道楽だ。

彼女は、退屈していた。

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