朝の一コマダイゴ編
ソケット達が階下へ食事をとりに行った後、モミジは部屋で乳鉢と薬草を手に【魔法薬】スキルを上げようと奮闘していた。
【魔法薬】スキルとは、書いて字のごとく魔法を施した薬の事でその効果は一時的に耐性をつける物や、投げつけることで爆発を起こす薬など様々だ。
それを作成しようと悪戦苦闘していると、隣の部屋からドスンという音が響いた。
それを聞いて、一度調薬道具を片付けて隣の部屋に移動する。
モミジたちが借りている部屋の隣にはダイゴが宿泊している。
「はいるよー」
モミジは気の抜けた言葉をかけ、返事を待たずにダイゴの部屋に突入した。
そして、すぐに状態異常回復ポーションを取り出し力の限りダイゴへ投げつける。
ポーションは瓶に入っているため、直接飲ませるか瓶が割れる勢いでぶつけて中身を浴びせる事でしか効力を発揮しない。
しかし、今回モミジがダイゴへポーションを投げたのは別の理由があった。
「なんで全裸なのさ! 」
ダイゴは、幸いというべきかうつ伏せに倒れていたので重要な器官をモミジが目撃することはなかったがそれでも目の毒にかわりはない。
事実モミジはそういった経験が一切なく、免疫は一般女性のそれよりも大分薄い。
「トレーニング用の服に着替えようとしたところでポーションを思い出して飲んだだけ……」
ダイゴはモミジから渡されたポーションを飲んだことで倒れてしまったのだから非はモミジにある。
もちろん何の説明もなかった場合は、であるが。
モミジは【レジスト】スキルの取得方法を知っていたのでダイゴ達にも取得を進めていた。
その方法は、時間経過で状態異常を回復させる事。
そうする事で取得可能スキルの一覧に【レジスト】スキルが出現する。
そのスキルをダイゴが取得して、毎朝モミジが魔法薬の状態異常付与ポーションを飲ませていた。
そしてダイゴも毎朝それを飲み、あることに気が付いた。
この状態異常の時に自分の肉体に何か変化はないのか、と。
ダイゴの考えは正しくもあり、間違ってもいた。
例えば状態異常の骨折、これは現実の骨折と同じで骨折箇所の防御力の低下と筋力の低下が発生する。
これは時間経過で治る状態異常の中では最も時間のかかるうえに、薬での完治は不可能だ。
この状態異常は魔法か、病院、後なぜかゲーム設定上温泉につかることで完治するが、骨折箇所は赤く表示される。
しかし毒や麻痺は肉体に変化はなく、ただ状態異常としての効果が現れるだけだ。
「おばか、今日は麻痺だって昨日の食事の時に行ってあったでしょう。
そもそも麻痺してるのにどうやって自分の体チェックするのさ。
私にやれというの? この変態! 」
「あ、すんません。
もっと見下しながらさげすむ感じでお願いします」
「しね」
ダイゴの言葉にモミジは間髪入れることなく返す。
しかし、その反応は逆にダイゴを喜ばせているという事にモミジは気づいていない。
「それより、私は外に出ているから服を着なさい。
そしたら【レジスト】スキルどうなったか教えて」
「うい」
モミジはそういいながら、つかつかと部屋の外へ出る。
それから、自分の顔が赤くなっていることに気付いて【ウォーター】で顔を洗って、水滴を拭きとったところでダイゴから呼ばれて部屋に入った。
そして状態異常付与ポーションを取り出してダイゴに投げつける。
「パンツ一枚で乙女を部屋に招き入れるな! 」
モミジの言葉の通り、ダイゴはパンツをはいただけだった。
それはモミジのように免疫のない女性にとっては、というより異性に対する行動としてはセクハラ以外の何物でもなかった。
この世界がゲームのままであったなら間違いなくGMコール、通報されていたであろう。
「あが、がががが」
当のダイゴと言えばモミジに投げつけられたポーションの効果で麻痺してしまいろくに弁明もできないままモミジに踏みつけられている。
しかし、モミジは気づいていない。
ダイゴの視線がモミジの着ているワンピースの、その下から見上げる物であることに。
(純白! )
ダイゴは良くも悪くも男だった。
彼が前衛職の剣士をえらび、さらにモミジにスキル選択の機会を与えられた際悩みぬいて片手剣を選んだのは自分を盾にして戦うという覚悟があったからだ。
そのことは他の誰にも伝えていないが、いざという時は自分もろともモミジの魔法で敵を殲滅してもらうという考えもあった。
しかし、モミジ自身はともかく多少の恋愛経験もあるレナやソケットは薄々ではあるがダイゴがそのような考えを持っているのではないかと気づいている。
唯一気づいていないモミジは、時折このような精神攻撃を受けるので気づくことはない。
けれどもモミジはダイゴの事を嫌ってはいない。
手のかかる弟のように思っている節もあるし、ダイゴもモミジの事を姉のように慕っている。
このやり取りは姉弟のふざけ愛のようなものだと、モミジ以外の人間は思っていた。
モミジ自身は後になって思い返してそう思うが、今はダイゴを踏みつけることに一所懸命で気づいていないだけだ。
なお、この後麻痺したまま放置されたダイゴは状態異常:風邪になるのだがそれは酒の肴にされてしまった。