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朝の一コマ

 朝になってモミジは自分のステータスを確認する。

 【レジスト】スキルを鍛え始めて7日が経った今、これはモミジの日課となっていた。

 状態と書かれた欄には【封印】の文字が刻まれていることを確認してからスキル一覧の【レジスト】を確認する。

 そこには【封印抵抗力:8%】と書かれていたのを確認して、一人何かに納得したかのようにうなずいてから服を着替え、宿のロビーへ降りて行った。


 宿のロビーにあるカウンター席ではすでにダイゴが食事をしており、モミジに気付くと隣の椅子を引いてモミジを手招きした。

 モミジ自身断る理由がないのでその誘いを受け、ダイゴの隣に座って朝食が運ばれてくるのを待つ。

 ちらりと横を見るとダイゴの朝食が盛り付けられた皿を見て目が留まった。

 そこには2cmほどの厚さのステーキ肉が乗っており、さらにどんぶりにはサラダが山盛りに盛り付けられている。

 またバスケットにはバターロールらしきパンが5つ乗せられていて、そのパンを一つ一つスープに浸してから食べていた。

 その光景だけでも空腹が紛れてしまったモミジは、ダイゴの前にあるバスケットからパンを一つ拝借して、自分のもとに運ばれてきた朝食はスープ以外すべてダイゴに差し出した。

 それを受け取ったダイゴにポーションを一つ渡して食後部屋に戻ってから飲むことと伝え、女性三人で借りている部屋に戻った。


 そこではレナが上半身だけを起し壁の一点を見つめ続けていた。

 最初は驚いていたモミジだが、今では毎朝の事なので慣れてしまっている。

 レナは朝に弱く、目を覚ましてからしばらくはまともに動くことができない。

 それはほめられたことではないが、なぜか魔法や薬を使ってもこの症状を抑えることができない。

 それはおそらく状態異常の【睡眠】ではなく、人体の構造上必要な睡眠だからだろうとモミジは考えていた。


 そんなレナを眺めながら、布団の中で冬眠中の熊のように丸まっているソケットから布団をはぎ取る。

 いくらモミジが貧弱な魔法使いといえど、レベル10前後のプレイヤーとは比べ物にならない筋力を持っている。

 おそらく今のモミジがダイゴの剣を装備して前線に出たとしたら、ダイゴ以上の攻撃力を見せつけることになるだろう。


「朝だよーおきてー」


 モミジは丸まったままのソケットをゆすって起そうとする。

 しかし、団子のように丸まったままのソケットはピクリとも動こうとしない。


「……せい」


「ふごっ!? 」


 モミジは少し考えてから、ピースサインをしてソケットの鼻に指を突っ込んだ。

 今のモミジの肉体は小学生程度の背丈しかない為、それに合わせて四肢も小さい。

 それを利用しての行動だが、ソケットからしたら細い棒を二本鼻の奥まで突っ込まれたことになる。

 その異物感と息苦しさは相当なものだろう。

 その証拠にゆすっても起きる気配のなかったソケットが一瞬で目を覚まして、異物の原因を掴んでどけようとする。

 しかしモミジの筋力がそれを許さず、じたばたともがき続けるソケットを見下ろしながらにまにまと微笑みを浮かべていた。


「おはようソケット」


「ふぉふぁふぉふもひひ」


 モミジに指を突っ込まれたまま挨拶をしているせいでソケットはまともに挨拶をできていない。

 しかしモミジはソケットが完全に覚醒した今でも指を引き抜く様子はない。


「もひひ、ふひふいへ」


 ソケットの抗議を受けてもモミジは相変わらず微笑んだままだ。

 それどころかソケットの鼻の中で指をグリグリと動かしている。


「ぶえっくしゅい」


 それはソケットが乙女らしからぬくしゃみをするまで続いた。


「うわばっちい」


「それはさすがにひどいし自業自得だと思うよ、モミジ」


 ここ数日の地獄のような特訓の末、ソケットはモミジと打ち解けていたがこのような仕打ちは初めてだった。

 そんなソケットをみて、モミジは楽しそうにケラケラと笑っているが、その右手は魔法で作り出した水球の中で綺麗に洗浄されている。

 これは昨日の情報共有の際に判明したものの一つで、魔法の自由度が上がっているという物だった。

 例えば今モミジが使っているのは初級魔法の【ウォーター】というスキルだ。

 このスキルは、魔法使いが弱体化する原因になった物で特定の位置に水の球を出現させて相手にぶつけるという物だった。

 しかし、この世界に来てからは空中にとどめて置くことができるようになったため、このように即席の洗面台に使う事もできる。


「あーびっくりしたよもう」


 ソケットはいまだに鼻を押さえながらモミジに近寄る。

 モミジはこの後自分が何をされるのか理解していたが、あえてされるがままに頬を引っ張られることにした。

 特別な事情などではなく、単にコミュニケーションが苦手だったモミジにとってこういうスキンシップは珍しい。

 ゲームの中ではアクティブな彼女も現実ではコミュ障と揶揄される性格だった。


「でも目は覚めたでしょう」


 モミジはそういいながら左手の指をレナの鼻に差し込む。

 しかしレナはソケットとは違いピクリとも動くことなく壁の一点を見続けている。

 さすがに不審に思い、モミジも指を引き抜いてレナの視線の先に目線を向けた瞬間、すぱんっという軽い音と共にモミジの後頭部に衝撃が走った。


「朝から何すんのよ」


 音の原因はレナであり、モミジが顔をそらした瞬間に後頭部をはたいたのだ。

 モミジは自前の防御力もあってか、それともレナの筋力が足りなかったせいかダメージを受けることはなかったが驚かされたことに対して顔をしかめている。

 言い換えるなら一本取られたという表情だ。


「なかなか起きないから悪戯をね」


「レナナイス」


 はにかむモミジとレナに親指を立てて称賛するソケットにため息をつきながらレナも立ち上がって服をすべて脱ぐ。

 それから適当な服を掴んで、着替えを済ませて1人部屋を出て行った。

 それは起こっているわけではなく、単に眠気がまだ残っているゆえの行動だ。


 ソケットもその後に続いて、寝間着のまま出ようとしてモミジに止められ、無理やり着替えさせられたのは余談である。

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