PK
初心者組の作戦会議が終わったところで再び草原を歩き始めた一行は途中からモンスターに出くわす回数が減っていることに気付いた。
特にモミジは【サーチ】という魔法で周囲を探っていたが、半径500m以内に敵対モンスターがいない事に気付き、警戒を強くした。
しかしそれは杞憂に終わった。
数キロ進んだところに、こちらの世界に来てしまったと思われる人が三人立っていた。
おそらくロリクスが引き受けた初心者達だろう。
モミジが任されたのはレベル100以下のプレイヤーたちなので彼らは恐らく100以上200未満程度のプレイヤーだと予測した。
「えーと……」
ダイゴが何か話しかけようとしたところで、その眼前に剣を突き付けられて動きを止める。
それと同時に三人の男が、顔は兜で隠れて見えないがくっくと喉を鳴らしながらモミジたちへ近づいてくる。
モミジはここで考えを改めた。
こいつらは初心者ではない、初心者や他のプレイヤーを狩ることを専門とした奴らだ、と。
ドミナスオンラインはPK、プレイヤーキルを推奨している立場にある。
ただし、だれかれ構わずPKしても構わないとなるとゲームは廃れてしまうためPK禁止区域を用いて対処していた。
その区域には初心者が集まるエリアや、ダンジョンなどがあげられるが今モミジたちがいる場所はその区域の外である。
ついでにこちらの世界でもPK禁止区域が適用されている保証はどこにもない。
「何の用」
モミジは声色を変えることなく、眉一つ動かさないまま無詠唱でスキル【リード】を使用する。
魔法スキルの中でも古代魔法という分類にある【リード】は相手の名前とレベルを読み取るスキルだ。
ゲーム時代はあまりに使えない為、ネタ魔法一覧に名前を連ねていたがこちらの世界ではだいぶ有効だ。
男達の名前はそれぞれアラン、カーター、ランドルと表示されており、レベルは300前後だった。
「いやいや、両手に花を持った上に花の冠つけた初心者がいるんでお零れに与ろうかと思ってね」
アランと表示された男の言葉にモミジは、PK集団の一員だという事を理解して杖を構える。
「ダイゴ! バックステップ! そのまま倒れて! 」
モミジの言葉にダイゴが反射的に後ろに飛びのき背中から倒れこむ。
それを確認してすぐにモミジがレナとソケットの前に立ち魔法を発動する。
「【コルド】【フレイア】【ソニック】
【コルド】【コルド】」
モミジが放った魔法は一人一発、もれなく命中する。
その威力は目を見張るものがあったが、男たちは吹き飛ぶだけで大きなダメージを受けた様子はない。
しかし、立ち上がろうとしたところに遅れて放たれたに初の【コルド】で地面ごと鎧を凍らされてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
「砕けて散れ、燃えて消えろ、はじけてとべ【無の衝撃】」
モミジの詠唱付きの【無の衝撃】を受けて三人のPKたちは消し炭となる。
一応警戒しながらクレーターを覗き込むと底には男たちの残したアイテムがいくつか転がっていた。
PKのうまみは、相手の所持していたアイテムをランダムに取得できることにある。
それに合わせてそ相手の所持金の半分を手に入れられることからPKは一定以上の人数が行っていた。
「いやーびっくりした」
モミジは頭をかきながらそういうが、ダイゴ達とは別の意味で驚いていた。
今モミジたちがいる草原は朝焼けの平原と呼ばれる場所で、モンスターの平均レベルは30ほどあるが低レベルでも狩れるほど弱いため初心者御用達の狩場だ。
しかし狩場と言ってもPK禁止区域でもないこの場所は、たしかにPKを行うことはできるが旨味はない。
そもそもPKで初心者を狙っても労力の割にもうけが少ないので狙う意味はない。
それならばパーティ内で誤射に見せかけてダメージを与えるなりひるませるなりしてMPK、モンスタープレイヤーキルを行った方がずっと効率がよい。
「やっぱゲーム時代の考えは甘いか……」
先ほどのPK組は両手に花を持ち頭に花の王冠をつけたダイゴのお零れに与るといっていた。
それはすなわち、モミジ、いやレナとソケットの体が目当てという事だろう。
少なくともそこにモミジを含んではいけないはずだ。
「ダイゴさん、レナさん、ソケットさん」
モミジが三人に声をかける。
それにビクッと反応した三人をモミジは苦笑いを浮かべる。
(やっぱおびえちゃってるか)
三人にレベルは見えていなかっただろうけれど、その強さは推し量れただろう。
それに合わせて自分たちの貞操が危なかったことも、女性陣は理解できたはずだ。
「ああいう輩がいると分かった以上、レベル50まで押し上げてはいおしまいとはいかなくなったわ」
モミジがそういうと、三人はきょとんとして首を傾げる。
「ちょっと、地獄を見てもらうわよ」
モミジがにやりと笑いながらそう言ったことで、三人は先ほどのPK組に絡まれた時以上に身の危険を感じていた。