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我が輩は傍観者である  作者: 二色
おぼろげに浮かび上がるもの
5/19

難易度の高いこと

 モブに最大の試練がやってきたようだ…。


 教室で中学からの親友である神崎梓と話している。見た目人当たりのいい可憐な少女。中身は隠れ腐女子だ。私にも日々その妄想を語ってくるわけだがいい加減にしてほしい。今度は彼を標的にしたらしい。以前は、中学からの知り合いである風紀委員長の古橋 たけるを標的にしていたらしい。やめてあげてよと言ってみたが、彼女は素知らぬ顔で、しかも無自覚で剛くんはネタをあげていたのだ。そして薄い本になるんだね…わかりたくない。剛くんは一生解らなくていいよ…。

 そんな彼女も今日はとってもテンションが高い。テンションが高すぎて自分の席に行く途中で、ほかの席の机に脚をぶつけていた。ざまあ。


「梓、今日テンション高いねえ」

「そうかな、そうだね! うん! ちょっと面白いネタが浮かんで!」

「…うん」

「夏奈がもとは男で女体化って思えば何の苦労もなかった! 愛されてるね!」

「…うん?」


 どういう意味だ。文法あってるかな。意味が解らないというか、私の脳みそが拒絶しているだけかもしれない。仕方ないと思われますが。


「九条君に忠告されちった。でも私は味方であるということを伝えたよ! 萌があるとこ私り! 夏奈が愛されてて私幸せで死にそう! むしろ本望!」

「…どうしてこうなった」


 こう言わずにはいられない。彼女のテンションは今最骨頂を迎えているだろう。鼻息荒い。これだから残念美人は。残念すぎて溜息しか出ないよ。


「たけちゃんにはどう報告しようかな。あの子ムンクの叫び状態になるかもしれない、うひひ」


 にやにやしてるよ。ドン引き状態だ。彼女はドSだ。人をいじるのが大好きだ。私も昔はいじられていた。たけちゃんこと剛くんはそんな彼女の標的だ。こっちの意味でも、ネタ的な意味でも。多種多様に使われています的な。

 気味の悪い笑い方をしている彼女は恋より妄想派だ。けれど私は彼女が恋をしたら応援してあげるつもりでいる。だって恋愛相談に乗ってもらっているんだもの。効果はないけど。


「剛くんがかわいそうだからやめてあげてよ」

「夏奈はやさしいなあ。くそう、かわいい奴め。でもやめないよ! 私の生きがい!」

「剛くん逃げて、超逃げて!」


 これだからドSは。


 あほなことを言い合って笑っていると、昨日彼の言っていたことを思い出した。私の知らない人の名前だったからかあまり興味はわかなかった。彼女なら知っているかもしれない。変なところで人脈が広いから。


「梓さん梓さん」

「なんだね夏奈君よ。そんなに改まって」

「鞍馬明宏って誰かわかる?」

「そんなのも知らないのか君は!」


 怒られた。どうも有名人だったらしい。私と梓は早く来るからか、教室には数人しかいないが、彼女の声の荒げた声が聞こえてしまったようだ。不思議そうな目で見られた。

 彼女はわざとらしく咳を一つ。


「失礼。…その鞍馬って人の名前、誰から聞いた?」

「冬弥君からだよ。なんか会わなくてもいいからって言われて…でもその人のこと自体知らないからどうしようもないかなあって」

「おおう…九条殿の独占欲ぱねえっす…」


 何を言っているんだこいつは。今日ほど意味不明な言葉をつぶやく日はなかったぞ梓よ。

 彼女は頭をかいて息を深く吐き出した。


「鞍馬明宏はここの生徒会長様だよ」

「嘘だ! …でもなんで冬弥君が会長さんのこと知ってるんだろう?」

「幼なじみだからだよ」


 ほぼ同時に私と彼女は奇声を上げた。しかも女子とは思えないほどの声を上げて。

 声のしたを方を見れば、黒い髪の美男子。長身だが、彼の方が高いかもしれないと素直に思った。


「おはよう。八馬夏奈でいいよな?」

「え、あ、うん」

「初めまして、冬弥の幼なじみの鞍馬明宏だ」


 男らしい表情でした。そこらのミーハーな女子は黄色い歓声を上げるか、惚れてしまうだろう微笑だ。しかし私には片思いの相手がいるし、その前に男に興味がわきません。あ、同性愛者じゃないからね! 偏見はないけど、違うからね!

 あちゃーって感じで額を抑える彼女を横目で見る。目が合うと親指をぐっと立てた。頑張れと!


「ど、どうして私のことを?」

「冬弥が気に入ってたから気になってな」

「あ、そう」

「…淡泊だな。もっと反応はないのか?」

「何を求めているんだあんたは」


 梓と会長がいきなり噴き出した。どこに笑う要素があるのか首をかしげる。


「思わず素で返しちゃったね、夏奈…!」

「…あ! やっちまった!」

「くくっ、もう手遅れだぜ」


 くそ! 素で返しちまった! 冬弥君と梓で鍛えられた、この口の悪さが! でも最近は口が悪くなると冬弥君に指摘されます。自覚してるんだけどね?

 とういうかなんで来たんだこの人。凝視していると近くの席の椅子を持ってきて、座りだした。


「なんか暇だから来た」

「私会長と知り合いじゃないよ? むしろ初対面だよ?」

「わしもじゃ。夏奈、追い出してくれんかのう?」

「老人の真似しても従わないよ。自分でやれ!」


 悪乗りしてきた彼女を叱咤する。ふてくされながらも彼女はやってくれる。私はそう信じているから。…なんか私すごくかっこいいこと言わなかった?


「帰ってよー私が怒られるんだからーあの魔王様に」

「魔王様?」

「九条君ですー! 夏奈に手を出したら殺されちゃうよ!」


 だから帰れ! 笑顔で言った。目は一切笑ってないです梓さん。怖いよう、怖いよう。

 会長は顎に手を当てて「暇なんだ、構え」と言ってきた。自己中か! しかもその姿カッコいいな! 冬弥君の方がカッコいいと思うけどね!


「あ」


 彼女が小さく声を上げて土下座した。え、何してんのこの人。

 土下座をしている向きを見てみる。あ、冬弥君だ。声には出さなかった。いや、出せなかったといった方が何倍も正しかった。彼はなんか知らないけど、怒っている。

 彼に気づいた会長がのんきに笑った。


「よう冬弥」

「帰れ。それか今すぐ死ね」

「いつにもまして辛辣だなあ。別にいいだろ? 会いに来るぐらい。ちょうど暇だったんだし」

「君の事情は知らないよ。僕には関係ない。彼女にも関係ない。興味もわかない。さあ、帰れ」


 わお、なんて毒舌! 私彼に逆らわないようにする! 命の危機になりそうだから!

 いまだ土下座している彼女に近寄り、立たせる。床で勢いよくやった土下座の反動で、彼女の膝頭が少し赤い。擦ってはいなかったから安心だ。血も出てないし。

 絶対零度の言葉の暴力。聞きたくないから、右から左へ受け流しておく。こういうのは得意中の得意だよ! どうだ見たか! …ただむなしくなるだけだった。やめよう。


「うう。ごめんね夏奈ぁ」

「どういうことだかわかんないけど、大丈夫だよ。それより膝大丈夫?」

「スライディング土下座、スカートだと思ってたよりも痛かった…」


 ほこりを払ってあげる。そりゃ痛いわな。露出してるし、足。赤くなったところが痛々しい。


 ちょっと会長、あんた梓のことちらちら見すぎだろ。ん? 一目ぼれか? 惚れたのか? お前なんかに彼女は渡さないからな!

 彼女はこんなこと気づいていない。この野郎、鈍感だなあ。ほほえましい気持ちになったが、彼女の目が変わった。これは、ネタを見る目だ…! 萌えている目だ…! 私にはわかる、わかるぞ…!


「やべえ。萌える。会長かける九条君? 逆でもいけるな…むしろリバ? なにそれうまい」


 自分の世界に入りました! この状態の彼女は殴らないと覚醒しない。でもこのままにしておく。なんか面倒だし。言ってること不穏で不純だけど。


「ナツ、」

「は、はいっ!!」


 いきなり名前を呼ばれて姿勢を正す。軍人さんの気分になったけど、なんか怖いよ。ガクブルという効果音がつきそうなくらいだ。ついてると思うけど。


「あっても、話さないって僕、言った気がするんだけど」

「い、言ってました!」

「じゃあなんでこいつはここにいるんだい?」

「なんか知らないけど我が物顔でここに来ました!」

「そう。じゃあ全部、君が悪いんだ」


 私から会長へと戻って行ったようだ。よかったよかった、一安心だねこれで。

 彼は会長の首根っこをひっつかんで教室を出ようとした。が、一度私の方を振り返った。


「今日の昼放課、ちゃんと待ってるんだよ」

「は…はひ…」


 怖くてちゃんと言えなかったけど、大丈夫な気がしてきた。彼は会長を引きづって今度こそ教室を出て行った。

 いつの間にか自分の世界から帰ってきた梓に、肩をたたかれた。


「死亡フラグ建設、おめでとうございます」

「やっぱりそうだと思ったよ!」


 諦めろとでも言いたげな表情にこぶしを入れてやりたいと思ったわ。

 深くため息を吐いて、死亡フラグ回避へのルートを考え始めた。

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