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我が輩は傍観者である  作者: 二色
おぼろげに浮かび上がるもの
3/19

接触は突然に

 私の目の前で繰り広げられる、制裁風景。


 モブと同士こと九条冬弥君の観察対象である、美少女だ。生徒会のファンクラブか親衛隊に、因縁をつけられている。かわいそうに。モブの私にはどうすることもできないが、私はそこを通りたい。

 さかのぼること昼放課。冬弥君と昼食を食べていた時のことだ。


  **


「あ、どうしようナツ」

「ん? どうしたの、冬弥君」

「僕の大事なストラップが消えてしまった」


 無表情でそういう彼を見る。声はどこか焦っているようで、本当に大事なものだということがわかる。


「どういうの?」

「食べ物だ。アイスクリームのストラップでな、僕はあれが一番気に入っていたんだよ」


 食べ物かい! 予想外のもので驚く。

 それぐらいなら、探すのを手伝ってあげてもいいんだけど。


「手伝うよ。放課後まで探してあげるから、冬弥君も探してね」

「決まっている。君だけに任せられない。それに、僕の落ち度だからな」


 あ、落ち込んでる。無表情だが、少し落ち込んでいるようだ。うん、同情するよ。私も大事なもの落としたとき、落ち込んだからね。

 見つかったら知らせてくれ、ということで私たちは手分けして探した。どうも彼はアイスが好きなようだ。辛党なんだけど。


 午後の授業が終わっても、見つからない、と連絡が入って放課後も探すことになった。

 彼の教室。彼が歩く道。後は実技教室などのところを探したが見つからなかった。本人はどこで落としたのか記憶にないって言うし…まあ、覚えていたらすごいけど。

 残るは昼で一緒に食べた校舎裏だ。うすうす、あそこで落としたんじゃないかと思っていたが、違うよなってやめたけど。そこしか見覚えがないというか、そこしか考えられないというか。しかし彼からの連絡が先ほどから一つも来ていない。彼は律儀だから見つかったら連絡するだろう、そう結論付けて校舎裏へと向かっていった。


 到着した瞬間にこの冒頭である。困った困った。私は小心者なんだよ?


「ホント調子のらないでくれる? 生徒会の皆様に気に入られてさ」

「媚でも売ってんの?」

「う、売ってなんかない!」


 囲んでいる生徒に反論する美少女に同情する。同情するなら助けてくれ、とでも言われそうだ。言わないでね! 無理っぽいから!

 私の悪い視力で見る限り、彼女は涙目だと思う。声がちょっと震えているし。…彼のおかげで声で判断できるようになりました。演技は見破れないけどね。平凡万歳!!

 彼女を囲んでいる女子生徒の一人が、彼女の胸ぐらをつかんだ。って、うええええええ?! まさかの?! 暴力ダメよ!?


「じゃあやめてくれる? 生徒会の皆様も本当は迷惑してるんだよ?」

「め、迷惑じゃないって、言ってくれたもん…」

「言葉だけならどうにでもなるでしょ?!」


 掴んでいる生徒の気持ちもわかるよ。うん。私だって彼に近づく女子生徒に嫉妬するし。…醜い感情を、人は持っているんだよ。

 彼は表情や行動に出ない分、言葉で示してくれる。それを私は知っているからいいけど、彼女たちは生徒会のことを知らないからそういうことを言うのだ。…悲しいね。

 息を吐いて、私は彼女たちの方へ歩いて行った。


「ちょっといいかな?」

「あ、お、王子…」

「な、なんで…」


 王子って呼ばれた! ちょっと感動! しかし彼の情報は誤っていなかったようだ。くそう。

 にっこりと笑えば、胸ぐらをつかんでいた女子生徒は手を放した。彼女たちは呆然と私を見ている。うーん、助けに来たわけではないんだけどね?


「あのさ、ここでストラップ見なかった? アイスのやつなんだけど」

「あ、もしかしてこれですか?」


 一人の子が私に何かを見せてきた。少し砂がついているが、アイスのストラップだ。多分これのことだろう。でも敬語はやめてもらいたいかな…。


「ありがとう。助かったよ」

「い、いえ!」


 笑ってお礼を言えばその子は顔を赤くして、頭を下げてきた。…私の王子伝説、開幕スタート、と。

 呆然と見ている女子生徒たちを見渡す。なぜか知らないけど顔が赤くなっている。青い子もいるけど。私そんな怖くないよ。こんなモブオーラ全開じゃないか! 気づいて!


「えっと、ごめんね?」

「あ…いいえ! では私たちはこれで!」


 謝っただけなのに、彼女たちは一目散に逃げて行った。…逃げて行ったよね? 表現的には。

 首をひねる。あ、と思い出して私と彼の観察対象の美少女を見る。目を見開いて私のことを凝視している。ワタシコワクナーイ、ボンジンヨー。なんて、片言で言っても気持ち悪いだけだった。

 私は彼女の方を向いて、顔を覗き込む。


「…大丈夫?」

「あ、うん! ありがとう! えっと…」

「…いいや、大丈夫ならいいよ」


 私はそそくさと帰る。走って。彼女が後ろで叫んでいるが無視をした。これが言い逃げってやつですね! 初体験! こんな初体験本当はいらなかった!

 見つかったことだし、彼に連絡しよう。そう決め込んで私は教室へと向かった。


「か、かっこいい…」


 なんて、頬を染めて彼女が呟いていたとも知らずに。


  **


 彼女にも手伝ってもらっているのに、一向に見つからない。

 そう思い、九条はため息を吐く。昼、彼女――八馬夏奈とともに昼食をとっていた時にストラップがなくなっていたことに気付いた。アイスクリームの中で一番好きなアイスのストラップだった。なくしたと思ったときは絶望した。そして落ち込んだ。それを感じ取ったのか、彼女は自然体で一緒に探すと言ってくれたのだ。


 嬉しかったな、と思う。彼女以外、自分に接しようとも、話そうとしてくれる人は数少なかった。だから、彼女のことが知りたくて幼なじみを使ったのに。何も意味がなかった。

 廊下を歩いていると見知った顔が視界に入った。黒い短髪に切れ長の黒い目。日本人らしい色彩に目を細める。彼女も、黒だったなと。


「よお、冬弥。何してんだよ」

「…探し物さ」


 幼なじみだとしても苦手だ。そう感じた。幼なじみであり、この学校の生徒会長でもある人物は笑った。


「アレ、役に立ったか?」

「彼女は気づいていなかった。でもありがとう。役に立ったよ」


 こいつは勘違いしているのだろうな。思ったが口にも顔にも出さない。彼女は声でわかると言っていたが本当だろうか。…否、昼の行動でわかったいたのだろう。

 ちらりと見れば、幼なじみはにやにやと悪い笑みをうかべていた。彼女からいえば美形の部類なのだろうが、昔から見ている分、何も思わない。むしろ腹立たしいと思ってしまう。


「そうだ、君。僕のストラップを見なかったかい?」

「アイスの? 見なかったな。興味ねえし」

「そうか。一回ナツにも連絡してみようかな」

「…ナツって、昨日の?」


 頷けばまた、にやりと笑われた。なんだというのだ。九条は首をかしげる。


「お前無表情で接して、何も言われないのか?」

「…彼女は何も言わない。というより、僕は彼女の前では無表情じゃない」

「…は? お前が?」


 間抜けな顔をしている幼なじみを見て、そう見えるのかと素直に思った。彼女にも少し言われたが、彼女が見ていない時に笑んでしまうのだから仕方ない。


「君はつまらないからな」

「ふーん、そう。でも、そこの子に興味わいてきたかも」


 悪い笑みだ。何かをたくらんでいるような笑みだ。ああ、面倒だ。

 九条は幼なじみに背を向ける。幼なじみは何も言わなかった。お互い、あまり気が合わないからだ。


 携帯が震えた。取り出してみてみれば、彼女からだ。思わず微笑を浮かべてしまう。開いてみると「見つかったよ」という文面と、そのストラップの写真が載っていた。ありがとう、とうって、教室へと向かう。鞄をとったら彼女の教室へ行こう。どんな顔をするのだろうか。きっと驚くだろう。


 上機嫌で九条は廊下を歩いた。

ヤンデレっぽく…なった、かな?

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