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我が輩は傍観者である  作者: 二色
鮮明に浮かび上がるもの
15/19

現実を直視したくない気持ち

 女々しくて見ていられない。そして被害を被るのはこっちなのに。

 そう思わずにはいられない、夏奈と九条君の関係。九条君のヤンデレがヤバい。標的はたけちゃんなのだが必死で私と会長で足止めをしている。やばい。何がヤバいかって、九条君の排除方法がヤバい。会長と止めに言ったんだが、小さくつぶやかれていた言葉に私も会長も言葉を失ったね。「社会的に抹殺」とか「突き落としてけがと見せかけるか」とか「何かを装って退学にさせる」とか…夏奈、やべえのに目を付けれらたね…。でも私は君の幸せを願っているよ!


 で、今だ。現在会長と九条君のヤンデレ対策会議を開いている。まだ夏奈に被害が出ていないが、地味にたけちゃんをやっているらしい。地道な精神的な攻撃という。そこから本格的に始動するかもしれない…ご愁傷様としか言えないけど、頑張る。


「止める術って見つかった?」

「全然。あいつヤバい。放課中時間があるときは絶対八馬といるし。どんだけ好きなんだよ…」

「マジか…他者依存型っていうのかな? ヤンデレについては詳しくは知らないけど」

「…何それ。何その専門的知識的な何かは」


 こんな感じで毎回始まっている。辛気臭い雰囲気が漂っているが、そこはご愛嬌で。それか察してください。それだけヤバいってことなんで。夏奈を守るのに必死なんだよこっちは…!


「とりあえず、九条君から夏奈はとらないように。これ鉄則」

「合点承知。とったその日、命日となるだろうな…」

「なら私毎日怯えなければならないじゃないか…なんで今まで生きていられたんだろ…不思議」


 そう。今の疑問点を上げるとしたらそこだ。なぜ私は生きていけるだろうか。言っておくがこれは比喩ではない。命にかかわる問題だからだ。

 関わりすぎている私と会長は今まで被害が少ない。そこ代わりと言ってはなんだけど、たけちゃんが受けている。たけちゃん以上に私は彼女に馴れ馴れしいのに、なんで実際的な被害がないのだろうか。わからない。思考が読めたらいいのに。

 会長は頬杖をついて苦笑する。


「俺もだよ。一番あいつに近いし、最近会ったばっかりなのに馴れ馴れしいのに」

「確かに。狙われやすいのは会長だよねえ。幼なじみだから?」

「あいつにそんな慈悲はない。毒舌野郎にそんな感情ないだろ」

「…私的にはありだけどなあ」


 腐的な意味でごちそう様です。片思い的な何かに妄想するので大丈夫です。…っと、それは今は置いといてだな。彼女と九条君の問題だ。


「夏奈の鈍感さに呆れを通り越して怖い…!」

「それは言えてる…!」


 なぜ気づかないんだあの子は! 他人から見てどう考えても、九条君は夏奈に好きオーラ出しているのに…! 彼女は馬鹿なのか…? いや、頭脳からして言えばいいほうだけどなあ。


 しかし考えてみればあの子はいっぱいいっぱいなのかもしれない。来栖桜という女の子に好かれている時点で危うい。それ以前に女子生徒に好かれている時点で危うい。彼女のフェミニスト精神――いわば女性に対する接し方がいけないのだと思われるが。結構男気があって、男よりかっこいい性格しているから、私からしてみれば違和感はない。たけちゃんが見たらどう思うのかは知らないけど。

 息を吐いて立ち上がる。もう帰ろう。夏奈が先に九条君と帰って行ったから暇だったんだ。


「帰るね。会長はどうする?」

「俺も帰る。途中まで送ってく」

「別にいいのに」


 断ろうとすれば、意地張ってもいいだろ? と苦笑された。「お言葉に甘えて」そう返せば会長は笑った。


「それは良かった」


 …傲慢な人かと思ったけど、やっぱり普通の男子高生なんだと思った。口調からして俺様何様生徒会長様って感じだったけど。私が見てるのって上辺だけだからなあ。表面上のことしか目に入らない。たけちゃんや夏奈――響生は違う。昔からの付き合いで内面をよく知っているから、言葉の裏を考えなくてもいい。…別に、疑い深いわけじゃないけど。


 昇降口で靴を履き替える。橙色の夕日が爛々と照りだしている。まぶしくて目を細めれば、会長に如何わしげな声を掛けられた。首を振って何でもないと返すと、彼は首をかしげた。しぐさが可愛らしいというのはこういうことですか?


「会長って、なんていうか、ばかわいいよね」

「…は? ばかわいい? 何それ」

「バカっぽくてかわいいってこと。夏奈も当てはまりそうかな?」


 あの子は天然すぎる。むしろ自然体すぎてバカに見えない。だから気付かない。ツッコミとボケを普段の生活でやっているからわかるけど、的外れのツッコミをしてくる時があるから要注意だ。その日は夏奈のことをよく見ていないといけない。呆けているから。

 …私って、夏奈のことしか考えてないなあ。優先順位の一番は夏奈だしね。

 ふてくされたように唇を尖らして顔をそらす彼に、思わず噴き出した。


「けなしてないよ、ほめ言葉として受け取ってよ」

「受け取れるか。男に可愛いって言って何がいいんだ」

「女の人でもかっこいいって形容詞を使うじゃない。それと同じことだよ」


 夏奈がいい例だ。そう付け加えれば、少し考えたそぶりを見せ「それもそうだ」と納得した。女子生徒によく使われているからな、夏奈は。


「でも、かっこいいって言われた方が男は喜ぶんだがな…」

「かっこかわいい」

「どっちだ」


 すかさず彼が言ってきて笑う。彼女もそういう感じだなあ。あって短い期間なのに、こんなのになじむのが速いなんて思わなかった。彼女も、響生も驚くだろうな。私みたいな他人に興味をあまり持たない人間が、すぐに馴染む人に出会うなんて。


「どっちか、って言われると悩むけど。四対六の割合かな?」

「可愛いの割合多くないか? ばかわいいって言っときながら、微妙な数字だな」

「悪かったな、即興で考えたんだよ」

「即興?! そ、そんな数値が、即興だと…」

「驚きすぎでしょ! 微妙なんだから喜べ! 一対九にしなかっただけ喜べ!」

「極端!?」


 いじりがいがある。たけちゃんには遠く及ばないけど、このドS心をくすぶる感じはとてもいい。

 自身の名誉のために言っておくが、SMプレイに興味があるわけじゃないからな? どっちかっていうと興味あるけど、それはネタ的な意味であってやるという行為では興味は一切ない。ここ重要。

 下ネタはあまり興味ない。どちらかというと放送禁止的な何かがいいです。あ、これも下ネタだ。アレ? 総合的に下ネタは興味あるっていうことか?

 訳がわかんなくなったので聞いてみた。


「話変わるけど、会長って下ネタ好き?」

「どういう経緯でも話題転換?!」

「なんとなく? なんかいろいろ考えてたら訳が分からなくなって…で、聞いてみた」

「なんとなくって…うーん、苦手だからな」

「えっ、童貞?」


 めちゃくちゃイケメンなのに? 彼女いない歴イコール年齢? まさかと思って直球で聞く。デリカシーがないとかいうな。これが私だ。


「悪かったな童貞で」

「悪かないけど。なんとなく。ヤったようなイメージあるから…」

「やめろそんなイメージ! そんなの嫌だ!!」

「もしかして彼女とか作ったことない?」


 気になってきいてみた。顔を少しそらして、かすかにうなずいた。恥ずかしいんだな、かわええのう。…変なおっさんになってきた。深呼吸深呼吸。


「告白はあるでしょ?」

「…されたことは、一応」

「モテるんじゃねえか」


 イケメンは違うねえ。羨ましい。私女ですけどね! 思うだけはいいだろう。

 私と夏奈は性格的に、口調が男の子っぽくなる。なるというか癖みたいなものだ。あまり周りも気にならないし、注意はされる。こっち的には大丈夫なんだけどね。


「でも、あのころはそういうのに興味はなかったから…」

「…そういうもの?」


 問えば彼は頷いた。思春期といえど、興味に差はあるらしい。私はどちらかと言えば響生以外興味なかったし、妄想派だったしなあ。妄想は楽しい。現実逃避にもなるし、人間観察もできる。ネタ的な意味でいい。

 ふーん、と興味なさそうに言えば苦笑された。聞き逃げだと思われるかもしれないが、現時点では興味はわかない。好きな人が出来ればいいけど、私は結構理想が高い。だから無理なのだ。


「あ、もうここでいいよ」

「え? でも…」

「大丈夫だって。近いし、そう遠くはないよ」

「そうか。じゃあ気を付けて」

「うん、じゃあね」


 手を振って別れる。会長が背を向けて帰っていくのを見て、方向違うんだなあ、と思った。いやあ、優しい。まさか送ってくれるとは思わなかった。


 息を吐く。こんな想いはずっと奥にしまっておこう。誰にも気づかれないように、ずっとずっと奥に。

 自宅に向かって足を進めた。

他者依存型とは、意中の相手がいないと病んでしまうことである。

――あってはいるが、彼はそれ以上に黒い感情を抱いている。


誰にも、気づかれないくらいに。

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