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我が輩は傍観者である  作者: 二色
鮮明に浮かび上がるもの
14/19

張り裂けそうな気持ち

 土曜日に彼に電話した私を殺してやりたい…。いっそ殺してくれ、梓よ。


 机に伏せて会話を思い出して恥ずかしさで死ねる気がした。私、告白まがいなことをしてしまったのだ。後付けしたように『友達』としてをつけていたけど、好きだと言ってしまった。不自然に思われるだろうか。いや、思うだろうな、泣きたい。その前に彼に会いたくない。あ、会いたいけど。どちらかというと会いたくない。今の段階ではの話だ。

 なぜあんな話になったんだっけ。確か、嫌っていると思われたからだっけ。嫌うわけないし、私あなたのこと大好きですよ? 伝えてませんけど。…おおよそ、私には伝える気がないのかもしれない。自分のことだけど、自分自身よりも彼の幸せの方を優先している気がするから。自分のことは二の次だ。

 席の前に座った梓が私の頭に手を乗せた。この姿勢に何か感じたのだろうか。どうでもよろしいですが。


「なにかあったの?」

「…バカなことをしてしまった…殺しておくれ」

「なんでそんな自殺願望的なこと言うの?! 殺さないからね!?」


 焦ったように言葉を出す彼女と目を合わせるために顔を上げる。メガネのレンズの向こう側にある目が、心配そうに揺れている。やっぱ親友だなあと感じてしまうのであった、まる。


「あっはは…」

「…今日の夏奈おかしいよ。ほんと、なんかあった?」


 いつものことだろう。君以上におかしくはないけど、今日は彼女以上におかしいらしい。これが私だとドヤ顔したら怒られた。ついでと言わんばかりに頭も殴られた。痛い。

 頬杖をついてため息を吐く。彼女には言っておこうと思い、事のあらすじを伝える。適当にフェイクも入れておくが、ほとんどは本当のことだ。嘘を言っても彼女には通用しない時が多いので、正直に言っておいた方がいい。本気で怒ると怖いからな、この人。

 話し終えると、彼女が渋顔を作った。何か言いたそうに口を開いたが、言葉は出てこなかったらしい。女々しくて悪かったな。まあ、これでも私女だし、王子って呼ばれてても女だし。これだけは変えられない事実だから。譲れないよ!


「そのまま告白すればいいのに…このヘタレ。ヘタレ王子」

「やめろ、やめてください。泣くよ? このまま私泣いちゃうよ?」


 しら~とした目で私のことを見てきたので顔を覆って隠す。恥ずかしすぎて死ねる気がする。死にたくない根性のない人間だけど。結構辛辣なこと言ってくるので、心に言葉のナイフが突き刺さってくる。それは剛くんにお願いできないだろうか。

 指の隙間から彼女を見て、口ごもる。


「だって、フラれたら嫌じゃん。私学校来ない自信あるし」


 我ながら酷い言い訳だ。しかしこれは本当のことであって、本当に怒ってしまうかもしれない現実なのだ。現実怖い。だからだろうか、現実逃避を素晴らしいものだと思ってしまうのは。直視したくない事柄とかが今、多すぎて過労死しそうになるから。死ぬときはちゃんと老衰か病気で死にたいな…。


「ほんと、なんでそんなネガティブかなあ。そうと決まったわけでもないだろうし」

「決めつけてないよ? そういう希望も少なからず持っているわけであってね?」

「なら言えよ、じっれたい。女々しすぎるわ。王子の名が廃るぜ夏奈」

「その名前あんたが勝手につけたんだろ。今度こそ本気で泣くぞ?」


 王子というあだ名は梓が原因だろう? 廃ってもいいわ。願ったりかなったりだ。

 奇声を上げてまた机に伏せる。もういやだ…家に帰る…悩むぐらいなら家に帰る…寝てやる。小さくもらす私に梓がため息を吐いた。女々しくていいじゃないか、私女なんだから。男らしくいろって? ふざけんな殴るぞ。


「こうやってぐちぐち言ったって何も変わんないよ? 何もないふり、何もなかったでいいじゃないか。どうせ会ったって九条君は何もなかったように振る舞うんだろ? なら夏奈もそれでいいじゃない。君は君なんだからさ」

「……あずさ」

「ん? なに? まだ何かあるの?」

「あんたイケメンだな」

「フッ。それほどでもないさ」


 ドヤ顔をきめる彼女に笑う。性格がイケメンすぎ惚れるわ。王子っての、梓の方がお似合いなんじゃないか? 言い出したの梓だけど。性格的に彼女の方がいいと思うんだが。…この議論は今度やってみよう。今はこの現状に対してだ。


「…つまり、私はいつも通りでいいだね?」

「うんうん。そういうこと。変わってたら余計気にするし」


 なるほど、納得。気にされたら困るのはこっちだからか。確かに困る。頷く。

 考える人のポーズから始まり、机に伏せた状態から結論が出た。すっきりしたなあ。笑ってお礼を言う。バカな私には考えが足りなかったようだ。単純に思いつくことだろうに、一切何も思いつかなかった。頭固いな、改めて思った。

 梓に肩をたたかれ、ある方向へ指を差された。首をかしげて指の先を追う。教室の扉の前に、冬弥君が立っていた。なんでいるの。何こっち見てるの。思わず口元を抑えて変な言葉が出てきた。


「な、何ぞ・・・」

「どこの人の方言だよ夏奈。テンパりすぎ。深呼吸深呼吸」


 彼女の言葉に従い、深呼吸を繰り返す。冷静になってきた。「行っておいで」の合図を出されたので一応頷いて彼に駆け寄る。彼は私に気付いてくれて、微笑してくれた。一瞬くらっとしたが気にしないでおく。私、強い子になる…!

 冬弥君は私の手を取って、目を合わせてきた。なんて澄んだ目なんだろう…じゃなくて! この状態はどうなんですか梓先生! 助けて! 恥ずかしい!

 私の思っていることなんて知らない彼はそのまま話し出す。


「…前、電話ありがと」

「うえっ?! あ、ああうん。その、迷惑じゃなかった…?」

「全然、むしろ嬉しいくらいだったよ」


 笑いながら、喜色を含んだ声で話す彼に惚れ直しそうだ。かっこいいというか、優しすぎるというか。本当のことか疑ってしまうが気にしないでおく。気にした瞬間、気持ちがダダ下がりになってしまう可能性があるからだ。落ち着いて話そう。いつもの私、いつもの私…。


「…本当に、嬉しかった。自暴自棄になって、死にそうになったから」

「なぜに?! 過激すぎるでしょ…死にそうとか。冗談でもそういうこと言うのやめてよ」

「…冗談じゃないんだけどね」

「冗談に聞こえない不思議。死んでほしくないし、言ってほしくもない、から」


 …私結構恥ずかしいこと言ってない? 思わず下を向く。顔を合わせずらい。上から降ってきた彼の言葉に動揺した。


「言ったら嫌いになる?」

「……はい?」


 何がどうやってこういう解釈になったのだろうか。彼の思考回路がわからない。もともとわからないけど、もっとわからなくなった。頭いい人は違うんだろうか…変人だから? 失礼だな私…ごめん。

 首を傾げて彼を見上げる。彼は依然真剣な表情だ。真剣に聞いているのだろう。解釈がどうのこうのという問題じゃなくて、彼は気になっているから聞いているのだろうか。いわゆる好奇心というやつなのかな?


「嫌うとか、そんなんじゃないけど…ただ、やだ」


 嫌う、嫌わない以前の問題だと思われるのですがね。気分が悪くなるというか。冗談に聞こえないから余計たちが悪い。だから、彼には言ってほしくない。

 彼は考えるそぶりを見せて、ゆくっりとうなずく。


「善処する。君に嫌われたくないから」

「嫌う嫌わない以前の問題では…?」


 言ったが受け流された。なんていう人だ、この人は。いや、知ってたけど。

 朝のホームルームが始まる時間までもう少し。名残惜しいなあ。というかずっと手を取られたままだ。手を繋いでいる感覚で恥ずかしい。こう思っているのは私だけなので、二重の意味で恥ずかしい。穴があったら埋まりたい。

 時計を見て彼は息を吐いた。


「もう少し、一緒にいたかったけど…。じゃあ、放課に」

「うん。また」


 手を振って彼は教室へと戻って行った。後姿もかっこいい…。恋は盲目とはよく言ったものだ。現在進行形で私もなんだけど。

 席に戻ると梓がにやにやとした笑みを浮かべていた。何か言いたいことがあるなら言えよ。そういってみれば彼女は口元を隠して、


「信じられるか? こいつら付き合ってないんだぜ…?」

「殴るぞ」


 握り拳を構えて脅す。

 ああ、今日も一日が始まる。

彼の心情を、彼女は決して理解できないだろう。

たとえ彼が彼女に思いを吐露しても、想いが通じ合っていても、彼女は決して理解できないだろう。

異常な執着、異常な愛。ただそれを不自然に思うだけであって、理解はできない。


慣れてしまえば、もう後戻りはできないことを、彼は――彼女は知らない。

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