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我が輩は傍観者である  作者: 二色
鮮明に浮かび上がるもの
12/19

喜劇だと思いたい産物

 なぜだ…どうしてこうなった。


 頭を抱えてこう思う数分前のことである。私は梓と移動教室の為に廊下を歩いていた時だ。談笑していただけなのに、前から麗しい容姿をした女子生徒が向かってきた。つやのある長い黒髪に小顔。この学校の副会長だ。美人で有名の。

 うわあ、近くで見るのはじめて!


 …こう思っていたのがいけないらしい。副会長は私たち二人の前までやってきて、美麗な微笑を浮かべた。


「八馬さんと、神崎さんよね?」


 なんということだ。私は頭を抱えた。そして冒頭である。平凡な生徒がこんな美しい人の前にいてもいいのだろうか。帰りたい、教室に行かせてください。

 なぜ名前を知っているのか、という疑問よりもそちらの方に気が行った。しょうがない。自分に正直にいかないと。副会長は私と梓の手を取って、


「お願い! 手伝ってほしいことがあるの!」


 まっすぐに目を向けて言われた。…手伝ってほしいこと?


「内容次第ですが…できる限りいいですよ」

「えっ、夏奈いいの? 九条君に会えなくなるよ?」

「い、いいのっ!」


 こいつは毎度毎度…! いじるなバカ野郎! 野郎じゃないけど!

 私たちのやりとりを静観していた副会長がほっとした様子で、笑った。


「ありがとう。じゃあ放課後生徒会室に来てね」


 えっ。絶句する私と梓に手を振って走り去ってしまった。まるで任務を終えた人間のようだ。といっても任務というわけでもないだろう。殺伐とした世の中じゃないんだし。

 生徒会室とか、会長の差し金か? 顎に手を当てて考えるが、移動教室ということを思い出して私は梓の手を引っ張って駆け出した。


  **


 生徒会室はまるで戦場のようだ。テレビのフィクション映像でよく見る風景、雰囲気で息が詰まった。仲が悪く思えるほどに緊張感が漂っている。会長は机にかじりつきでこちらの存在に気付かない。気づかなくていいけど。呼んできた副会長が気づいて、ソファーへと案内された。金掛けたのかな…こんなところで金を使うとはもったいない。


「来てくれてありがとう。生徒会役員の代表として感謝するわ」

「は、はあ。あの、なんで私たち呼ばれたんですか?」


 問えば副会長はクスリと笑った。何か企んでいるのだろうか…なんかちょっと怖いぞ。


「学校祭の手伝いをしてほしいの。人員が足りない、わけでもないけど、ちょっとしたごたごたが今起きていてね。…あのさぼり共が…」


 相当怒っていらっしゃるらしい。大方、桜ちゃんのメロメロ(死語)攻撃だろうか。役員は全員合わせて七人だ。会長と副会長二人、会計二人、書記二人。二人のところは三年生と二年生で分かれている。現在四人しかいない。どうなっているんだ。双子の存在がいないことから、桜ちゃんのところにいるのだろう。サボり、ダメ、絶対。

 察すれば梓が苦笑していた。情報網のすごい彼女はすべてわかるのだろうか。私は情報や噂に疎すぎて困るのが難点だが。


「えっと、手伝いってなんですか?」

「書類整理とか、いろいろ。その日によって変わるんだよねえ。だから落ち着くまで手伝ってほしいの! お願い!」


 先輩に頭を下げられてしまったことに驚いて急いで止める。悲痛さがにじみ出てて私たちは目を合わせた。どうしようか。そう思っていたら梓が口を開いた。


「いいですよ。大丈夫です。どうせやることないですし。ね、夏奈」

「え、あ、うん。大丈夫です。私たちでよければ何でもしますよ」

「本当?! ありがとう! 凛! 手伝いいいってさ!」


 凛とよばれた人は振り返ってこちらを見た後、ふわりと微笑した。


「ありがとうございます。こちらのわがままに付き合っていただいて。いない役員は早急にとっ捕まえようと思っています」


 丁寧な口調と和風美人な容姿があっていて、とてもいい。女子生徒で先輩だ。長い髪を三つ編みで編んでいて、しかもそれが顔にあっていて美女ってこういう人だと思った。

 会長。副会長がそう呼べばこちらを見た後、真っ青な顔でこちらを見ていた。なんだ、なんかいけないことでもあったか。驚きすぎじゃないか? 不審に思ったが気にしないでおこう。


「お、おい八馬…冬弥にこのこと言ったのか…?」

「え? 言ってないよ? いう必要ないかなって思って」

「うわああ! 俺殺される…冬弥に殺される…どうしようどうしよう」


 不審な行動をとりだした会長を呆れた目で見れば、バッと立ち上がってどこかへ行ってしまった。首を傾げれば梓が私の肩に手を置いてきた。


「これがバッドエンドじゃなければいいね…」

「なんで悟りを開いた表情してるの? 私なんかしちゃったの?!」


 と言ったが、彼女は諦めた表情をしただけだった。…これって、死亡フラグかなんか? 私殺されちゃうフラグかなんか?


「殺されるというより、監禁かなあ…なんてこったい!」

「自問自答しないでよ! 教えるぐらいいい…監禁?!」


 罪を認めないということですか、わかりません。私もう梓のことがわかんないよ…わかんなくてもいいんじゃないかなあ。わかりたくない気もするから。

 頭を抱えていたら会長が戻ってきた。副会長が首をかしげてどうした? と聞いた。


「…冬弥に一応連絡しといた。俺、今日が命日かもしれない…」

「諦めんなよ! なんでここであきらめんだよ! でもわたしも同罪だから安心しな会長!」

「か、神崎…お前、お前が返事をしたのか…?」

「最初は夏奈だけど最終的には私かな!」


 何二人で意気投合してるの。私ぼっちじゃないか。か、悲しくなんてないんだからね! 嘘です。悲しいです。一人嫌ですごめんなさい。

 会長喜んでるね、少し。梓と話せてうれしそうだ。だけど死期が迫っているなら、嬉しい思いは恐怖に負けるだろうね。これ私の勘。あってたらすごいけど。

 というかなんで冬弥君に連絡したんだろ? 保護者? 彼は私の保護者的な何かなの?! それだけは断じて許さない。許さないぞ、絶対。


「大方、こっちに来るだろうね。夏奈を連れ戻しに。いやあ、ヤンデレ恐ろしや!」


 自身の肩を抱いて笑う彼女に副会長も笑った。笑う要素がどこにあるのか、一向にわからない。話についていけなくて困っている人一名、ここにいますよ。

 副会長は私たちを一瞥して、微笑した。


「本当にありがとう。今日はお願いだけして、明日の放課後から来てくれないかしら。用事があったらそっちを優先してくれてもいいわ。後、何かあったらこいつ通してね、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「自己紹介は…明日でいっか。今日は急だったしね。ほんとありがとう」


 そうですね。と同調して生徒会室から去ろうと扉を開けた。が、思わぬ人物が視界に入った。


「ナツ…?」

「と、冬弥君?」


 息を乱した彼が、廊下に立っていた。荒い息に走ってきたんだと思うが、どうしてこんなに急ぐ必要があったのか。何かあったのかな、会長も冬弥君に連絡したって言ってたし。

 扉を閉めてから彼に近寄った。恐る恐る彼の顔を覗き込む。


「どうかしたの? 会長になんか…うわっぷ」


 抱きしめられました。


 う、うわああああ!! これってどんな反応をすればいいの?! あ、冬弥君のにおいがする。じゃなくて、私は変態か! 一人ボケツッコミしてんじゃねえよ!

 彼の腕の中で少しもがくが、力が強すぎて何もできない状況だ。


「と、冬弥君…?」

「よかった、よかった。教室にいないから、嫌われたのかと思った。よかった、ナツ、ナツ」

「う、うん?」


 私が教室にいないのを嫌われたと解釈したらしい。嫌うわけないのに、この想いを伝えない限りこう解釈はするだろうけど。私だってこれと同じようにされたら思うわけだし、だいたい冬弥君は私のことが(友情的に)好きだと決まったわけでも、言われたわけでもないから。…悲しくなってきた。

 苦しいよ。そう言えば離してくれた。とおもいきや頭を撫でてきた。いつも通りの優しい手に安堵する。怒ってない、大丈夫。怒ったら危なさそうという意見は梓からだ。

 あっ、梓は。と思い廊下を見渡せばいなくなっている。帰りやがりましたあの人。酷いなあ。


「どうして、生徒会室にいたの?」

「うんと、副会長がお願いをしてきて…学園祭に向けての手伝いをすることになったんだ。これから放課後は生徒会室に行くことになったから。その、ごめんね?」

「……理由があるならいい。でも、連絡はしてね。さっき、嫌われたと思って死にそうになったから」

「そんな大げさな」


 言ってみる。彼は小さく笑って、そうかな、といった。彼はわからない時が多いなあ。


「じゃあナツ」

「ん? なに?」

「帰ろうか」


 僕と一緒に。

 そう言われて私が断れるはずがなかった。思わず笑って頷いた。

この感情はとても歪で、とても汚くどす黒くなっている。

彼の感情は本当に恋情からくるものだろうか。

彼女を望んで、求めて。ただそれだけのことで恋情だと認めるのだろうか。


それがわからないのが、他人の感情なのだ。

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