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我が輩は傍観者である  作者: 二色
おぼろげに浮かび上がるもの
1/19

モブという名の傍観者

一話完結風。

けれどやっぱり続いてるようにも見えなくはない。

 私はモブだ。

 影が薄く平凡で、周りには名前を呼ばれることも少ない、ごく普通の一般人だ。


 私の高校には顔面偏差値の高い男子が数多くいる。生徒会、風紀委員。教師もその中に入っており、女子生徒からの人気は絶大である。

 そんな彼らが熱を上げている女子生徒がいた。美人でかわいく、華奢で小柄な女子生徒。彼女は普通の男子にも人気が高い、お人形みたいな子だ。男性に好かれる容姿をしているからだろう。女の私には嫉妬心しかないほど、彼女は愛らしい容姿をしている。

 生徒会の役員が熱を上げているせいで、彼らのファンは彼女にいじめのようなことをしている。それはダメだと思うが、彼らのファンたちにかかわると、こちらにも被害が来てしまうおそれがある。人気者は大変だな、なんて他人事のように思う。実際他人事なんだけどね。


 さて、長々と語ってしまったが、これでいいのだろうか。彼のことを説明するにはこの前置きが必要なのだ。


 突然だが、私には片思いの相手がいる。興味ないと思うが聞いてくれるとうれしい。

 片思いの相手は、隠れイケメンというものだ。長い前髪で隠れてしまっているが、私は彼の素顔を見たとき一目ぼれしてしまった。といっても顔が少女漫画に出てきたような王子みたいだったからだ。私は悪くない。でも彼は感情がすべてなくしてしまったように、無表情だ。それは誰に対してもそうで、教師も生徒も彼に近寄りたがらない。愛想がない、ということか。

 しかし、彼は性格が強烈だった。聞こえをよくはできないが、変人である。

 彼は自身の一人称を「僕」としている。それがなぜか「吾輩」に変わったり、「俺様」に変わったりする。…彼によると気分で変えるものらしい。気分で変えないでいただきたい。それに彼は、頭がよすぎる。理論的で正論で、口げんかになると誰も反論できない。誰もあまり興味ないと思うが、彼は運動神経もよく、喧嘩が強いらしい。彼がそう話していた。


 そんな彼が今、私の目の前にいる。

 なぜか。そう問われると偶然としか返せない。私にとってもこれは不思議でしかならない光景なのだ。

 彼は感情の起伏の少ない目で私を見た。


「どうかしたのかい?」


 首を傾げて問うが、無表情だ。聴きやすい声に聞きほれてしまうが、内心で頭を振って我に返る。髪の隙間から覗く彼の濃い藍錆色の目に、私が映った。

 長身の彼は私を見下ろしている。何センチあるのだろう。


「…九条君、身長何センチ?」

「ん? 百八十かな」


 私は何を聞いているんだ! バカか!

 しかし私の問いとは別に彼は律儀に答えてくれた。百八十か…高いな…。ちなみに私は百六十だ。

 私は今度こそ聞きたかったことを聞いてみた。


「えっと、九条君はここで何をしているの?」

「観察さ。校内で噂の美少女のね。いつも同じやり取りで飽きてしまったけど」


 ため息。そして彼は小さく「僕は傍観者だからね」といった。私は首をかしげる。どういう意味だろう。

 彼は小さくうなずいて口を開いた。


「僕はその他大勢だから、傍観者にもなれる。よく小説であるだろう? まず主要人物である主人公。その場合ヒーローかヒロインがつく。そこにまた何人かの人物がいる。その人物にはまだ名前が存在するだろう? 僕は名前が載らないその他大勢…いわゆる第三者だ」


 彼は笑うことなく語った。声色にどこか楽しそうに聞こえてしまう。錯覚かと思うほどだ。目は口ほどにものを言うというが、彼の場合逆ではないだろうか。


「へえ…じゃあ私もその他大勢かな」

「君がか?」

「そう」


 頷けば彼は顎に手を当てた。なんだっていうんだ。まさかモブに見えないというのか? このモブオーラの半端ない私が!

 私はモブだからな、うん。これは変えられない事実だ。だから勘違いしないでくれ。

 彼は私を一瞥すると、手を差し出してきた。


「では同志よ。僕と一緒に傍観者ライフを楽しまないかい?」


 握手かい! そんなツッコミが出てしまうが、いい機会だ。彼の手を握る。…この手もう一生洗わない、っていう気持ちがわかる気がした。

 ニコリと笑って言う。彼とはよく話す仲だが、こういう関係になるのは初めてだ。こういう、と言っても傍観者同士なんだけど。彼は何にも感じないだろうな。


「私ももとは傍観者のようなものだよ。…九条君と一緒なら大歓迎」


 少し意味深に言ってみたつもりが効かなかった。彼は鈍感なようだ。だって返事をしただけなんだもん。何の感情も示さない。

 彼は「ありがとう」とつぶやき、視線をもとの位置に戻した。しかし何か感じたのだろう、小さく「あ」とつぶやいた。どうしたのかな。


「君の名前、僕知らないけど。聞いてもいいかい?」

「もちろん。八馬やつま夏奈だよ」

「八馬さんね。覚えておくとするよ、同士」


 覚える気がないということですね、わかります。同士と言っている時点で気づいていたんだけどね?少しの可能性を信じたいじゃないか。

 ふむ、と呟き、彼は彼女に目を向けた。彼の視線を浴びている彼女が、心底羨ましくなるな。

 でも、こんな関係でも彼の隣にいることが、幸せだと思っていてもいいかな。


「これからよろしくね、九条君」

「そうだね、八馬さん。…八馬さんって言いにくいな…」


 そう言って考え込んでしまった彼に目を向ける。俯いて、ぶつぶつと何かを唱えている。


「ど、どうし」

「決めた」

「…へ?」


 いきなり顔を上げた彼に目を瞬かせる。髪から除くひとみに、一瞬目を奪われた。彼は私を見て、こういった。


「ナツ、でいい? 僕はあまり人と関わらないから、親しい呼び名がいいんだ。君とはよく話すし、話しやすいしね」


 これは口説き文句ですか。

 恥ずかしくなって俯き、顔をそらす。彼が不思議そうに私の名前を呼ぶ。この野郎、かっこいいなちきしょー…。


「…それで、大丈夫です」

「なんでいきなり敬語なんだい。おかしいね、君は。見ていて飽きない」


 うわああああ!! 恥ずかしい! 恥ずかしい! なんでこんなこと涼しい顔で言えるの?!

 惚れた弱みということですね、理解しました…。私は赤い顔を必死で隠すために、両手で顔を覆った。彼からは不思議そうな目で見られたが気にしない。私、強い子になる。

 そんな決意はすぐ壊れてしまいそうだけど。今ぐらい思っておかないと危ない気がする。


「君も僕のこと下の名前かあだ名でいいよ」

「…え?」

「君なら許可してあげるよ」

「………え?」


 そんなこんなで、彼こと九条君との傍観者ライフを始めることになる。

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