フェル兄そして、小さな女の子
天気は快晴・快調。太陽がキラキラと輝いている。今日の仕事(お手伝い)は、薪集めである。フェル兄が木をちょうどいいサイズにしてくれるので、僕がまとめて縛るのだ。その後、老人の一人暮らしの人を中心に配る。もうすぐ、寒くなるのでいつもより多く作らなくてはならない。毎年大変だが、大切な作業だ。だが…
「コア、俺、用足してくるわ」
開始早々、フェル兄離脱。
昨夜、居酒屋で浴びるように飲んでいたので、予想はしていた。フェル兄の凄いところは、あんだけ飲んどいて、二日酔いをしたことがない。たったの一度も。次の日には、トイレが近くなるくらいでほかに影響はないのだ。
いつものことである。ため息をつきながらも、黙々と作業にかかったのだが…
「いたっ!」
木の棘が刺さり、血が出てしまった。しかも、僕としたことが今日は救急箱を家に置いてきた。
「しまったなぁ」
怪我はそんなに酷くない。舐めたら治る程度だ。しかし、問題はフェル兄である。普通、大人は子供がこの程度の怪我をしても笑って手当するだけだ。
だが、彼は違う。
幼い時のことである。本を読んでいたら、紙で指を切った。その時、近くにいたフェル兄に傷を見せたら、大騒ぎだった。だっこされ、村の病院に連れて行かれた。医者のハリーは笑いながら、絆創膏を張ってくれたのだがなぜかフェル兄は怒った。
「そんな荒い治療で、この子が死んだらどうする!!!!」
鬼の形相で言い放った。
紙で指切っただけなのに。もう一度言おう、紙で指切っただけだ。お医者のハリーはびっくりして、ぎっくり腰を患ってしまった。数日間、布団でうなされていたらしい。
僕も何が起こったかわからなかった。ただいつも優しいフェル兄が豹変したわけは自分にあることはだけは幼心にもはっきりと分かった。もう二度と、怪我を見せない。そう決心した。
決心したのだが、これをどう回避したらいいのかわからない。
棘は案外深く刺さったみたいで、どくどくと血が出ている。フェル兄はもうそろそろ、帰ってきそうだ。とりあえず、指を咥えてみる。鉄臭いだけで、止まる様子を見せやしない。どうしたもんだか…そんな、現実逃避しかけた僕の視界にありえないものが映った。
女の子だ。茶色のふわふわした髪、緑色の大きな目。真珠のような白くすべすべした肌に、桃色のほほ。美少女といえるのだろうか。ほかの女の子を一人しか見たことないのだが、ほとんど覚えていないし周囲の女性はたくましいひとしかいない。
だが、驚くのはまだ早い。
彼女は、手のひらサイズなのだ。何もかもが、小さい。彼女は誰かを探すかのようにきょろきょろして歩いていた。
可愛らしくて、ついじっと見ていたら、向こうもこちらを見たその瞬間、彼女はただでさえ大きい目を見開いて(目玉が落ちるかと思った)、
「見つけた!!」
と叫びつつ、僕の方へ飛んできた。比喩じゃなく物理的に。羽を出して。
「と、飛んだ・・・」
突然の展開に、頭がついていかない。その勢いのまま、突撃してきた彼女は僕の顔面にぶつかってきた。
「いたっ」
そのまま転がった彼女は僕のお腹の上で大爆笑。何がおかしいのやら。
よく見ると彼女の背中には、大きな薄い羽があった。それは彼女の動きに合わせ、小刻みに揺れる。だがいきなり笑い転げていた彼女は僕の指を見て、青ざめた。
「ご、ごめんなさい。」
今にも泣きそうな彼女は、血で濡れている僕の指を見つめ慌てている。彼女はぶつかった時にできた傷だと思ったらしい。
「いや、これは・・・」
君のせいじゃないよと続けようとしたとき、彼女の表情が変わった。あまりの変化に続きが言えなくなる。無表情というか冷たい印象のある顔立ちだ。そして彼女が傷口に息を吹きかけたその瞬間、傷が消えた。あれ…
「君は、ピクシーなのかい?」
彼女は、疑問符を頭に浮かべている。先ほどの冷気を感じるほどの気は消えており、また可愛らしい彼女に戻っている。跡形もなく。
「私は、フェアリーのリーフよ。今はつっ!」
突然つっかえた彼女は首を絞められたように、だんだん顔色が悪くなっていく。いきなりのことで、どうすべきかわからない。だが、このままでは死んでしまう。すると、大きな手が僕の手から彼女を掴み空へ放り投げた。
え、
あっという間に、僕の手から離れて消えた彼女。思わぬ乱入者につい怒鳴る。
「何してんだよ!」
投げた張本人である、フェル兄は憎々しくも涼しげな貌をしている。
「まぁ、見てな」
とりあえず、フェル兄に言われたとおりに彼女が飛んでいった方を見る。すると急に風が僕らを中心に吹いた。
「そこ、手入れてみ」
フェル兄は顎で特に空気の層が厚い所を指す。とりあえず、言われたとおりに手を突っ込む。すると、何か温かい物が触れた。それを掴み、引っ張ってみる。中から出てきたのは、先ほどフェル兄に投げ飛ばされた女の子だった。
「リーフ!」
指を彼女の口元に当てると規則通りに呼吸をしていたので、一安心。顔色も元に戻っている。まるで眠っているようだった。安心し、ほっと息を吐く。
「こいつは、風の妖精だからな」
フェル兄が淡々と語りだす。ようせい、物語の中でしかでてこない生き物だ。僕が不思議に思うのをわかっていたかのように、続けて口を開く。




