カラドリウス
崩れ落ちる敵機に合わせてこちらも膝を落とす。
ビームブレイドを握るフルオートの左手を放さないように。
そして間髪を入れず、とどめを刺すためビームブレイド突き出す。敵機中枢を狙って。
ビームブレイドの切っ先は地面に横たわる敵機に瞬時に肉薄し奴に残る最後の装備、光壁カラドリウスなる兵装ごと串刺そうとする。しかし、
「カラドリウス!」
不意討ちから立ち直ったのか片山が突然そう叫ぶ。次の瞬間、敵機胸部が輝いた。
(あれは荷電粒子砲と同じ光……?)
疑問に思うより早く機体を飛び退かせた。
全力で後方へとジャンプする。
しかし、間に合わなかった。光は敵機胸部から飛び出し、意思を持ったムチのように襲い掛かって来る。
まずい、と思った瞬間には空中で右腕を切り落とされていた。
右腕を失いながら地面へと着地する。
「てめぇよくも俺のフルオートを……!」
怒りのせいか声をふるわせながら片山が言う。
本気を出さずに舐めてかかって来るからだろうがと思いつつ、ため息をつく。
(失敗……か)
フルオートの武器は一つでも残っていると容易にこちらを殲滅出来る兵器だ。
そのため俺はまず奴の武器を全て破壊し丸裸にしようとした。もちろん武器に構わず一撃で敵を仕留められたらそれがベストだ。
しかしビームブレイドは奴の機体からエネルギー供給を受けてその威力を発揮していたため、下手に敵機中枢を攻撃してしまうとエネルギー供給が途絶え致命傷を与える前にただの棒っ切れになってしまう恐れがあった。コックピットはかなり強固に作られているそうだし。
そして、ビームブレイドがただの棒になってしまった時に奴の武装が一つでも生きていたら、こちらの負けが確定する。
そのためまず敵機を無力化してから胴体への攻撃を、と思っていたのだが……。
(時間が足りなかったな……)
奴は奇襲から立ち直ってしまった。
とはいえこちらが負けた訳でもなさそうだった。光壁カラドリウスなる装備はビームシールドの一種のようだ。先程はそれを転用して攻撃に使ったのだろうが、射程の方はたいした事がないといった所なのだろう。
二機の距離は50メートル程しか離れていないというのに二撃目を仕掛けて来る様子はない。
両足とメインスラスターを失っているため、身動きが取れないというのもあるのだろう。
しかしかといってあのビームシールドがある以上こちらから近づいて行ってぶん殴る訳にもいかない。
これは……引き分け……というか将棋で言う千日手の様な状況なのだろうか?
いやまあ、このまま睨めっこを続けていると、敵の仲間が援軍としてやって来るだろうから若干こちらが不利か。
「こうなったら……」
「……?」
俺の呟きにトリンが不思議そうな声を漏らす。
「逃げよ」
そう言うと同時に奴に背を向けえっさほいさと機体を走らせた。
ボロボロの機体が悲鳴を上げる。もうちょっとだけ頑張ってくれと念じながら少しペースを落とす。
「てめえ! 逃げんな!」
片山が怒鳴り声を上げる。
しかし敵機から荷電粒子砲が失われている以上、言う事を聞く義理はなかった。
「……」
「……これで終わりだと思うなよ……絶対に見つけだしてぶっ殺す」
自分の言葉に強制力がない事を悟ったのか呪咀のように片山が呟くのを無視しながら、戦場を後にした。