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工場

「ここがパプリオか」


そう呟きながら町全体を見渡す。

コックピットのスクリーンに映る街並みは事前にイメージしていた風景とおおむね一致していた。


町はファンタジー系のゲームや中世ヨーロッパの田舎のような雰囲気だった。

高層ビルなどはもちろんなく、背の低い住居が仲良く並んでいる。

そのため、唯一の例外に自然と興味が湧いた。


「トリン、あのでっかい工場みたいなのって何か分かるか?」


その建物は明らかに異質だった。


町は基本的に、科学力何それといった様子の手作り感あふれる町なのだが、

その工場に似た建築物だけは現代の工業地帯にでもありそうな外観をしていた。


「あれですか? あれはケフェウスが運営しているパイロットのかた向けの施設ですね。工場と呼ばれています。本格的な修理や物資の売り買いが出来ますよ」


「ケフェウス関係か。どうりで町の雰囲気から浮いているわけだ」


納得。

そして実際に工場という名前が付いているんだな。

安直。



さて、この後どうしようかな。

もう日没まであまり時間がなかった。

スクリーンに映る太陽はじきに完全に沈んでしまいそうだ。

とりあえず宿屋に行って部屋を取るのがベターなんだろうが……。

やはりあのケフェウスの工場とやらが気になる。


「すまんトリン。宿屋の前に工場に寄っていいか」


「もちろん構いませんよ」

快諾してくれるトリン。


「ありがとう」


俺のガードに選ばれたのがトリンで良かったと思いつつ、俺は施設に向けて機体を歩かせる。

工場は町はずれにあるため、ロボットにとっては窮屈な町中を横断せずとも工場に乗りつける事が出来た。


ロボットが珍しいのか道中町の人たちにたいそう見物された。

まあ、あまり友好的な視線ではなかったが。


町の人たちが我が愛機を眺める表情は、不安や怒りなどのネガティブな色合いが濃いように感じられた。


「トリン、この世界ではロボットって嫌われてるのか?」


「地域によりますね……ロボットのせいで嫌な思いをしている町や過去にそういう事があった地域では好かれてはいません……」


「色々あるんだな。ん? 過去って事は昔からロボットがあったのか? この世界」


「いえ、一年程前からです。元々この世界にはロボットは存在しなかったんですが、突然ケフェウスが現れてそれからですね。その後だんだんとロボットやパイロットも増えていきました」


「なるほど。というかパイロットも早い奴は既にこの世界に来てたんだな……」


たいがいの事はケフェウスが原因っぽいなと思いながら町の外縁部をぐるっと周り、ケフェウスの施設前で歩みを止める。



コックピットを開き、機体から降りる。

自動ドアを抜け施設内に入ったとたん、真っ暗だった工場内に明かりが灯った。

照明が一斉に仕事を始めたのだ。


まあ、そんな事はどうでもいい。俺の興味は工場内の一角に吸い寄せられた。


「あれは……パイロットスーツか。それにヘルメットも」


工場内は基本的にはだだっ広いだけで何もないつまらない空間だった。


しかし人間用の入り口に近いコーナーにだけは、パイロット向けと思わしき様々な品が陳列されていた。

アニメで見たような……というか色々なアニメのパイロットスーツと、うり二つのデザインのものが何種類も置かれていた。

二次元関係以外にも、現実の空軍などで使われていそうなデザインの物や、ファンタジックな物など様々だ。

スーツ以外にもヘルメットや酸素マスクなど一目で用途が分かる物もあれば、何に使うか一見しただけではよく分からない物もあった。

どうでもいいがタバコやらカップラーメンなど日本のコンビニに置いてありそうなものすら揃っている。


「いらっしゃい」


俺が物色を続けていると、そんな声が背後から聞こえてきた。

トリンの声ではない。トリンよりは多少落ち着きを感じる声だ。


振り替えると白衣を来た二十代中盤ほどの女性が立っていた。

整った顔立ちに余裕のありそうな表情。

肘のあたりまで伸びる黒髪。

優秀でなおかつ暇を持て余した女医さんといった雰囲気の女性だった。


「あなたは?」


「私はこの工場を任されている者だ。まあ適当に工場長と読んでくれよ、二条君」


「は、はあ……」


まだ名乗ってもいないのに工場長は俺の名を読んだ。

まあケフェウスのメンバーなら勝手に知っていても不思議ではないか。


「まあ立ち話もなんだ。向こうにソファーがあるからそこで話そう」


工場長はそう言い、俺とトリンを近くのソファーに招待した。

四人掛けのソファーが向き合うように配置されていた。

この場合どこが上座でどこが下座になるんだっけと一瞬迷ったが、異世界まで来て上座もクソもないかと思い直し適当に座る。なんだかずいぶん久しぶりにソファーに腰掛けた気がする。

少し心が落ち着いた。


そしてトリンもちょこんと隣に腰を下ろす。対して工場長は俺の真正面に陣取った。


「それにしても君、ポイントをユニークに振り分けたね。機体の方に一ポイントも使わず鍵開け技能を極めるなんて」


いきなりそんな事を言って来る工場長。

俺としても興味をそそられる話題であるため、余計なツッコミを入れずにそのまま乗っかる事した。


「珍しいんですか?」

「珍しいね。上手い事立ち回れば結構うまい汁吸えると思うよ、君」


「そういうものですか」


「ああ。だがまあ、しばらくは気を付けるといい。あの機体で他のパイロットに襲われたらひとたまりもないだろうからね」


工場長は外で待機させてあるロボットを指差しながらそう言った。


「でしょうね」


「とはいえ、そうそう死にはしないだろうがね。どんな機体でもコックピットは通常の攻撃では壊れない様に作ってあるから。ガードもいる事だし」


「えっ、コックピットってそんなに堅いんですか?」


「パイロットが死なないように堅くしてある。最初はそんなプロテクトはなくて簡単に死んでたんだけどね。でもそれだとほとんどのパイロットが戦闘を避けてね、見ててつまらなかったんだよ。で、コックピットを固くしたって訳」

「へえ、そんな歴史が……」


確かに戦争や異星人との争いじゃないんだからそんなもんか。


「パイロットと言えば、この町ではパイロットやロボットって嫌われてるんですか?」


道中の町の人たちからの視線を思い出しながら俺は尋ねた。

工場長は、うん。と、頷いてから事情を教えてくれた。


「嫌われてるね。この町は片山ってパイロットが縄張りにしているんだけど、これが結構な悪党でね。この町から金を巻き上げているんだよ。そのせいさ」


彼女は笑いながらそう言う。


「そういうものですか」


「そういうものさ。片山の機体、フルオートは中々優秀な機体でね。のさばっているのさ」

フルオートというのがその片山って奴の機体名か。

どんな性能をしているのだろう。俺がそんな事を考えていると、

工場長が突然その表情を崩した。

窓の外を眺めながら面白そうに笑っていた。


「ふふふ。噂をすればなんとやらというやつだな」


「どうかしました?」


「いやなに。面白いものを見つけてね。あれを見てごらん」


そう言って窓の外を指差す工場長。

工場長という肩書きの割には繊細そうな指先が指し示した先には煙が立ち上っていた。

この施設からは数百メートル程離れている。

だいぶ暗くなってきていた為少々見にくかったが。


「煙…火事ですか?」


「いや違う。あれはのろしだよ。町の人間がやっているんだよ」


「へー、何かあったんですか?」


俺がそう尋ねると工場長はフククと意地が悪そうに笑って、


「あったね。君がやって来た」


「えっ」


思わず、思わずそんな言葉が口から漏れる。

しかしそれがどういう意味かはほぼ同時に察する事が出来た。

肝が冷える。今までの呑気な気分が吹き飛んだ。


ここで悠長に会話などしてていいのか? 早くこの町から離れた方がいいのではないか? そんな考えが脳内を駆け回る。


「町の人間は君が来た事を片山に知らせているんだよ。あなた様の縄張りに侵入者がやって来ましたぞー、ってね。じきに片山が彼の機体と共に飛んでくるよ」


「……」


やはりそうか。まいったな。


今からでも町から離れた方がいいのだろうか。それとももう手遅れかな。

そんな事を考えていると、今まで俺と工場長のやりとりを見守っていたトリンが不安げに口を開いた。


「……で、でもこの町の人たちは片山って人の事を嫌ってたんじゃないんですか? どうして二条さんを売るような事を……」


「それは君、この男がやって来た事を連絡しなければ罰が待っているからだよ」


「そんなっ……!」


「そういうものだよ。というか君、余程外界と隔絶した田舎出身なのかい? 余所者のパイロットがやって来たら今回のような対応を取る町がほとんどだろう。この世界では」

工場長の言葉にトリンは息を詰まらせた。


とりあえず、ここに居ても仕方がないな。

そう判断し、トリンにその事を告げる。トリンは力なく頷いた。


「片山の性格からいって戦闘は避けられないだろうね。君に取っては初陣になるわけだ。応援しているよ」


そんな事を言ってくる工場長に礼を言い、工場を後にした。


これからの事を思い苦笑した。

ただまあ、そう悪い状況でもない。幸い相手は善良なパイロットではなく、ろくでもない奴のようだし。

相手の機体が強力なものだとしたら、それはそれで悪くない。


奪ってしまおう。

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