第一ヒロイン第一ロボ
その仮説はとても魅力的に感じた。
とはいえまだ浮かれるには早い。ただの勘違いかもしれない。
何か他に、その仮説を裏付ける情報が隠れていないだろうか?
そう思い、様々なステータスが表示されたディスプレイを注視する。
ロボット側にセキュリティレベルの概念があるのなら、それを破る技能もあるのかもしれない。
そう思い、ディスプレイに表示された技能一覧に目を通していく。
100を越える技能の中で、その可能性がありそうなスキルは1つだけだった。
鍵開け
とシンプルに表示されていたその技能をクリックする。
鍵開けスキル、これもやはりレベル制で1から10レベルまで存在した。そして、
【対象にセキュリティレベルが設定されている場合はそのレベルを上回っていなければならない。上回っている場合は対象とのレベル差により解除スピードが変動する】
との説明文。
これだ、と思った。
やはり状況が整えばロボットを奪うことが出来るのだ。
しかし鍵開けスキルを10レベルまで上げるには、150ポイント消費しなければならなかった。
俺は悩んだ。
鍵開けスキルを極めてしまえば300ポイントあるポイントの半分を使う事になる。
かといって半端なレベルではいざというとき失敗してしまうかもしれない。
安全な場所での失敗なら問題はないが、そうじゃない場合致命的な事になりかねない気がする。
こっそり忍び込んだものの鍵開け失敗。あたり一面に響き渡る程の大音響で侵入者を知らせるブザーが鳴り響く。
なんて事態になったら目もあてられない。
恐らくこのスキルを使っていくなら10レベルまで上げないと危険だろう。
俺は悩んだ。
普通にロボットを組み上げるべきかそれとも鍵開け技能を始めとした人間の技能にポイントを注ぎ込むべきか。
正直に言えば俺の心は後者へと傾いていた。
当然、普通にロボットを作るよりリスクは上がる。
しかしそれを補って余りあるメリットも存在するように感じた。
時計を見る。
制限時間は残り8分を切っていた。
どちらを選ぶにしろそろそろ決めなくてはならない時間だ。
最後に数秒考える。
そして、俺は選択した。
ロボット側のディスプレイを操作する。装甲を最低に。
さらに操作する。整備性を最低に。
そして初期設定で装備されていたアサルトライフルを削除する。
そういった要領でロボットの性能を最低にしていく。
ロボットの性能を最低まで下げた事でポイントが300増える。
これでポイントは合計600に。
そのポイントを使って鍵開けスキルを修得する。それ以外にも操縦技能や整備技能、剣術技能や切り落とし技能、そして分析技能と耐G能力も。
結局、俺が選んだのは後者だった。賭けのようなものだからか妙な高揚感につつまれる。
制限時間は残り数十秒。
なんとか使いきる事が出来た。
不思議な達成感を感じる。
機械音声によるカウントダウンが始まる。
10、9、8…………2、1……。
感情を感じない声が0を宣言したとたん、再び視界が歪みはじめた。
そして前回同様謎の加速感。
二回目ともなると驚きはしなかった。
しかし、やっぱり気持ち悪いなあと思いつつ俺は気を失った。
1回目は男だったから2回目は女の子か?
再び目が覚めた時、俺は荒野に立っていた。
目の前には15か16歳くらいの女の子。
薄い赤色の髪をポニーテールにした可愛い子だった。
最初に会ったあの男とは違い、今度の女の子には人間味が感じられた。
どうも緊張しているように見える。
何か俺に言おうとしているのに、タイミングがつかめずモゴモゴとしている感じだ。
「……」
「……」
このままじゃ、らちがあかないな。
俺から話かけるか。
「えっと」
「あのっ!」
かぶった。
二人同時に声をあげてしまう。
微妙な沈黙。
しかし気まずさは感じなかった。一層緊張した様子の女の子が可愛らしかったからだ。
女の子は文庫本のような物を取り出し大急ぎで最初の辺りのページをめくる。マニュアルか何かなんだろうか?
「あのっ、私、あなたのガードを担当する事になったトリンです! よろしくお願いします!」
そう言って頭を下げるトリンと名乗る少女。
この子があの男が言っていたボディーガードか。
どうみても普通の女の子にしか見えないけど本当に強いんだろうか?
「あぁ、俺は二条誠。よろしく」
取り敢えずそう返し、こちらもペコリと頭を下げる。
「わ、わ、頭を上げてください」
「?」
慌てた様子のトリンを不思議に思いつつ顔をあげる。
そして気を取りなおして重要なことを訪ねる。
「ところで俺の機体知らない?」
「あっ、それでしたら後ろに」
振り替える。
身長17メートルの巨人がそこには居た。
堂々と立っていた。
見た目はオーソドックスな人型。
機体色は黒をベースに所々に目を引く赤。
武装等は剥いでしまったので特徴的な所はないが、だからこそシンプルなカッコよさがあった。
俺は思わず息を飲む。夢にまで見た光景だった。
駆け寄り乗り込む。
コックピットに入りこみシートに座りこみながら機体を起動させる。
操縦技能は無意識の内に正しい動かしかたを教えてくれた。
一歩、踏み出す。機体のステータスが最低なせいかそれだけで酷く揺れる。
しかし今はその揺れすら楽しめた。
もう一歩踏み出し、歩き、そして走りだした。
思わず苦笑する。愛機の走る速さは笑ってしまう程遅かった。余裕で車に負ける速度。
まあでも、それはそれでなどと思ってしまい再び苦笑する。
そして意味なく辺りを走り回ったりパンチやキックを繰り出してみたりする。
「このままじゃ野宿ですよぅ……どこかの町を目指しましょうよぅ……」
そうトリンが助けを求めるように言いだすまでの数時間。俺は愛機に乗り続けて遊び倒した。