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ダメサンタのタイ遊び

ダメサンタのタイ遊び

男の楽園、それはタイランド。

一年中蒸し暑い気候のこの国は、一年中、買える国でもある。

儚い男の白い夢を解放し、ひとときの快楽を提供してくれる国。

素敵な寺院にハートは乱され、

敬虔あらたかな仏像に手を合わせる。

時間の流れがゆったりと経過し、街ゆく人に


サワディーカッ


そんなところへ、異教徒である一人と一匹が迷い込んだ。

「っかー、いやいやまいったね」

真っ赤なサンタ服を着たタクローが、真っ黒いサングラスをしてタイ国際空港に降り立った。


「暑いですなー、タクローさん」

トナカイが真っ赤な鼻に汗をかいた。

検疫にひっかかったトナカイを、タクローはかたくなに


「秋田犬です」とゴリ押しした。


秋田犬に、かわいいトナカイさんの帽子をかぶせました。

と、トナカイの首の下に赤いリボンが蝶蝶結びされていた。

それは、網走で配るはずだったプレゼントに巻かれていたリボンをひっぺがして巻き付けた代物だった。


やっとのことで繁華街へ出たタクロー一行はひとまず観光へ出かけることにした。

ワットポー寺院では、ビーフジャーキーをくちゃくちゃしながら寝っ転がった大仏を眺めた。


「上から目線だな」

タクローは左の口角をきっと上げた。


「上から大仏様ですよ」

トナカイも便乗した。


「しかしあれだな、いいもんだな大仏ってのは」

タクローは食べ終わったビーフジャーキーの袋をその辺に放り投げた。

いや、自然に返還したと言った方が確かか。


「え?なんでです?サンタのほうがよくないですか?」

「なんでだ?」

「全世界共通で愛されてますから」

「・・・エクセプト イスラムだけどな」

右の口角をきっと上げた。

「・・・・で、どうして大仏がいいもんなんです?」

トナカイが脱線しそうになった汽車を線路に戻した。


「この格好を見てみろ」

「さっきから見てますが」


タクローはトナカイを睨んだ。

トナカイはその目を受け流した。


「まるで日曜日のお父さんそのままだ」

「はぁ」

トナカイはクビを傾げた。


「床に寝っ転がって煎餅食いながら、安いドラマを見て屁をこく様に似ているだろうが?」

「タクローさん、いい加減にしないと怒られますよ」

「誰に?」

「異教徒なんですから」

トナカイは小声でタクローに耳打ちした。


「あれだな、おれもこれがしたい」


タクローの突飛な鞍替え発言にトナカイは目が飛び出そうになった。


「寝っ転がって微笑んでりゃ金が入るなんてよ、これだよ、俺の求めていたものはよ!!!」

両手を高々と上げ、大仏に微笑む様は、サンタクロースとしてはいかがなものかと疑いたくなるものの、当のタクローの目は黄金の大仏に負けないくらい、きらびやかに輝きを放っていた。


「違いますよタクローさんが望んでいるものは・・・」


トナカイはそう言うと、未だ手を上げて固まっているタクローを半ば強引に連れ出した。



******プッシー通り******


ふわ~ぉ


道を挟んで様々なピンクな店が点在していた。


「おおおおお!」

タクローは揉み手をしながら、まるで大型犬が嬉しくてシッポを

ばっさばっさと振るように身体を左右に揺らしながら闊歩した。


その後ろを首にリボンをつけたトナカイが鼻を赤らめながら謙虚についてきた。


店の前では細~いおねぇちゃんたちがゆらりゆらりと

焦らすような腰の動きで美味しそうな密を振りまき、カモを・・・いや、

迷い込んできた蝶を秘密の花園へと誘っていた

そんな折、タクローも密かに一人のおねぇちゃんに狙いを定めていた。


俺が欲しかったのは、これよ。


心の臓が早鐘を打ち始め、血液は行かなければならない場所へと動きを早めた。


店の黒服を呼ぶと、早速交渉に入った。


「しかしまぁ、うちもですね、いろ~んなお客さんが来ますけど、まさかのサンタさんは初めてですよ」


黒服がまじまじとサンタを見て言った。


「で、サンタ割引はあんのか?」

タクローはぐいぐい攻めた。

「サンタ割引?」

「安くなんのかってことだよ」

焦る心と体を必死で抑えた。


「分かりました!遠くの国から来たお方だ!特別料金でご提供しましょう!特別ですよ!」


・・・日本からだけどな


心の中で言うが、口に出すのはやめた。


トナカイは自分のその赤い鼻をおねえちゃんの衣装である、見えそうなくらい面積の少ないパンツにぐいぐい当て込んだ。


「きゃっ!だめでしょ!悪いワンちゃん!」

トナカイの顔を持って鼻にキスをした。

これが男だったら回し蹴りをくらってるところだが、


トナカイめ、なかなかやりよるな。


と、どーでもいー事に関心しているサンタに黒服が渋い顔で寄ってきた。


「すいませんサンタさん、このカードは使えませんね」

「あ?んなわけあるかよ」

「何度かトライしたんですが。現金はお持ちでは?」

・・・・・・・・・・・・

「あいにく現金はフィンランドドルしか持ってねーな」


フィンランドドル???


「両替なさいますか?」

「・・・・いや、出直すわ」

タクローは山の気候と似たり寄ったりの性格のためか、いきなり心に雨が降ったようだ。

タクローとトナカイは肩を落として宿までの道程を歩いた。


「タクローさんが大仏のところで変なこというからバチが当たったんですよ」

トナカイが嫌みを言った。

「サンタにバチもなにもあったもんじゃねーだろ」

「異教徒ですよ」

「異教徒だとバチがハチみたいにぶーんと飛んでくんのか?あ?」

「ぜんぜん面白くないですから」

「・・・帰るか」

「買えませんでしたしね」

「・・・なかなかやるね」


タクローとトナカイが空港へ向かっている途中の様子がモニターに映し出された。


「あいつるぁー」


怒りでこめかみに血管が浮き出ている。

ドン*サンタは握り拳を自分の太ももにがしがし当てた。


「まぁまぁ抑えてください」


傍らではスイスサンタがホットチョコレートをドン*サンタに差し出した。


「あの野郎共はワビの一つも入れないで旅行に行きくさってからに」

ドン*サンタは鼻息が荒く、クオーターコインが入りそうなくらいに鼻腔を広げた。



ジリリリリリリリリリリ


ドン*サンタの部屋の黒電話が着信のお知らせを伝えた。


「はい、こちらサンタクロース振興協会 会長の・・・」


今までの声とはうらはらに、よそ行き声に早変わりさせた。


「・・・・ええ。・・・それは・・・その、大変申し訳ございませ・・・・いえいえ、そんなことは・・・・はい、はい。それはもうその・・・」


ちん・・・・・


「どうしました?」

スイスサンタが心配そうに顔をのぞき込んだ。


「・・・・大仏友の会からのクレームだよ」

「あぁ・・・クレームがきちゃいましたか」

「あんだけ派手にやってくれりゃぁ、そりゃ来るだろうよ」

「あいつら帰ってきたらただじゃぁおかねー」


ドン*サンタは指をバキバキと派手に鳴らした。

ドン*サンタを怒らせたということに全くもって気付いていない二人は、処理しきれなかった儚い夢を乗せたまま帰路についた。



【おわり】

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