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1 黒ウサギ 畑に種をまく

 むかーしむかしのこと。


 ヒツジさんの所で白菜ができたので、ウサギ山から黒ウサギと白ウサギがかり入れを手伝うために、ヒツジさんの所へ出かけました。


 体の大きな白ウサギは、いっしょうけんめいはたらきました。

 体の小さい黒も負けずにはたらきました。体の小さい分を、長くはたらくことでうめ合わして、さらにいっしょうけんめいきました。


 三日三晩、二匹のウサギが働いたおかげで、ヒツジさんの畑の白菜は残らず刈り取られました。


 ヒツジさんはまんぞくそうにうなずいて、言いました。


「ほれ、バイト代はやるよ」


 かり入れたばかりの白菜の山をあごで示しました。


 白ウサギはもらった白菜を大八車に乗せて、ウサギ山まで引いて帰りました。

 山ほどもらった白菜のおかげで、おなかがすいてもこれを食べていけました。

 食べ物を探す心配のなくなった白ウサギは、とても幸せでした。

 ねてはあそび、ねてはあそび、おなかが減ったら白菜を食べてくらしました。





 対する黒ウサギさん。

 ヒツジさんは、黒ウサギにも白ウサギと同じだけのりょうの白菜をくれようとしましたが、黒ウサギはそれを断りました。代わりに、白菜の種をくれるようヒツジさんにたのんだのです。

 種なんかあっても、おなかはふくれません。


「こんなものでいいのか。ほれ、やるよ」


 ヒツジさんは無よくな黒ウサギにびっくりしたようですが、こころよく種をふくろにつめて手わたしました。

 黒ウサギはそれを手に持ってウサギ山の方へかえりました。


 しかし、山には登らず、山のふもとを見て回りました。

 そして、黒ウサギは畑に良さそうな空き地を見つけました。


 すきやくわを振るって、空き地をせっせとたがやしました。

 そして、もらった白菜の種をまきました。


 それからというもの、黒ウサギは来る日も来る日も、必死に白菜の種の世話をしました。

 春の嵐に芽をとばされてしないように、土をもって、うねを作りました。

 梅雨の間に、畑がどろだらけにならないように、溝をほって水はけをよくしました。

 真夏の日照りの下で、白菜がしおれないようにせっせと水を運びました。

 秋のイナゴがわくころになると、それを一匹ずつ見つけては、せっせと潰しました。


 いつも白菜を大切に思って暮らしました。

 大きくなるように、ゆたかに実るように祈りながら、肥をまきました。


 助けてくれるものはいませんでした。


 ときどき、ウサギ山から白ウサギやその友達がやってきてましたが、手伝うためではありませんでした。

 黒ウサギがせっせと働いているのを見て、冷やかしました。

 ときにはじゃまさえしました。


「何がんばっちゃってんの」


 ウサギたちは言いました。


 しかし、黒ウサギはいっさい気にしませんでした。

 どんなに笑われても、どんなヤジが耳に入っても、ヒゲ一つ動かしませんでした。

 じゃまされても、他のウサギが帰った後、せっせと荒らされた畑を直しました。


 白菜は大きくなっていきました。

 それをねらって、カラスがまうようになると、黒ウサギはかかしを立てました。

 カラスはほ乳類と比べて、脳が小さくバカなので、ひっかかってくれました。


 秋も深まるころ、収穫の時期が来ました。

 山の裏手に、たわわに実った白菜が一面に広がっています。

 それをみて、黒ウサギは言いました。


「かり入れきれないな」






 白ウサギは手もとの白菜がつきたので、またヒツジさんの所のかり入れを手伝いに、山を下りました。

 しかし、ヒツジさんのところの畑はがらんとしていました。


 白菜ができていないのです。

 びっくりして固まっている白ウサギの前に、ヒツジさんが出てきて言いました。


「悪ぃな。白菜作りはやめちまったよ」


 白ウサギは、こまりました。

 食べるものがないと、おなかが空いてしまいます。

 おなかが空きすぎると、餓死してしまいます。


 そこへ黒ウサギが大八車を引いてやってきました。

 黒ウサギは、ヤギさんと白ウサギに、片耳を跳ね上げてあいさつしました。

 その大八車には白菜が山積みになっていました。

 白ウサギは驚いて、黒ウサギに尋ねました。


「その白菜はどこから来たんだい、黒ウサギ?」

「畑を耕して、種をまいて、水をやって、自分で育てたんだよ。こうやって自分で作物を作って初めて、自分を養うことができるんだ」


 黒ウサギはヒツジさんが白菜を作っていないのを見てとって、白ウサギに問いました。


「白ウサギさん、僕の白菜を買うかい? ちょっとぐらい安くしてあげてもいいよ」


 黒ウサギに頭を下げるなんてとんでもない。

 そう思って白ウサギはヒツジさんに、たよりの目を向けました。


 でも、ヒツジさんは笑って言うだけでした。


「働かざる者、食うべからずでいいんじゃねえの?」





 こうして、黒ウサギを笑うウサギはいなくなりました。





 もっとも、笑うヒツジさんはいましたけど。


「はたらくなんてバカらしいね」


 ヒツジさんは言いました。


「ヒツジさんは、畑を耕すのをやめて、どうやって食べていくんだい?」


 黒ウサギがたずねます。

 ヒツジさんは、体中にまとったふわふわな羊毛を示しました。


「毛のないおサルさんが、俺の羊毛に夢中なんだよ。それを剃らせてやって、代わりに食い物をもらってるのさ。羊毛はいくらでも生えてくる。無限の富さ」


 ヒツジさんは高笑いしました。


「おまえたちウサギには羊毛がないのだよね。かわいそうに。まあ、がんばって白菜を耕すことだ。おまえたちにはそれが、よく似合っている」


 黒ウサギは目で笑ったまま、何も言い返しませんでした。





 白ウサギはウサギ山に帰るや、すぐにくわとすきを担いで畑を探しました。

 黒ウサギのまねをして、自分の白菜を育てようとしたのです。


 しかし、いい土地は、すでに黒ウサギが自身の管理物件として登記した後でした。

 残っているのは、痩せた土地ばかりです。

 加えて、概して創意工夫といった類の労働意欲に欠ける白ウサギは、大した収益はあげることができませんでしたとさ。




 おしまい。


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