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こてつ物語7  作者: 貫雪
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 真柴組にこの話が来た時に、御子は真っ先に名乗りを上げた。是非、自分にやらせてほしいと。


 当然、組長はいい顔をしない。それでも御子は押し切るつもりでいたし、組長も最後には折れてくれた。


「お前に心を読む気が無くても、向こうは千里眼の使い手としてお前を見るぞ。それを承知の上で、やると言うのだな?」

 組長は念を押してきたが、御子は、だからこそ、やる価値のある仕事だと思った。


 確かに自分はこの組に育ててもらった。組長がいなければ自分はどうなっていたか分からない。


 皆、自分の千里眼を疎んじたりするような事はなかったし、どんな時でも、勝手に相手の心を読んだりすることはないと言う事を、心から信じてくれた。これは千里眼で読んだから分かった事なんかじゃない。人目を気にして生きるうちに、周りの感情を肌で感じやすくなってしまった自分の五感が、知らせてくれるのだ。


 だが、ここで組の仕事をしていると、皆、何らかの気づかいを御子にしてしまっている。千里眼への偏見から、御子を守ろうとしてしまう。それは御子がどうのと言うよりも、誰もが何らかの事情を抱えている真柴組の、組の者に偏見を持つ者達から組員を守ろうとする、仲間意識が働くからだ。


 特に、組長などは、御子のように子供の頃から預かり育てている者には、さらに特別な感情を……我が子同然の感情を抱いてくれている。それはとてもありがたいことではあるのだが、御子に関してはその気持ちが強すぎて、いっぱしの組員として認めていない節があった。


 組長は御子が学校を出るまで、事務室に入室さえさせなかったし、形ばかりの杯をかわす事さえ二十歳までさせてはもらえなかった。今だって、御子は組長の養女として籍に入れてはもらえずにいる。


 つまり、組長は御子を育てた後は、組には一切のかかわりを持たせず、どこか堅気の男の元にでも嫁がせて、安穏な一生を送らせたいと考えているようなのだ。


 だが、御子はそれを良しとはしなかった。組には育ててもらった恩があるし、正直、世間の人間達に、いい感情を持っているとは言い難い。何よりも、御子は真柴組が好きだった。今では、我が家と呼ぶだけでは足りない程に、この組へは愛着がある。自分を受け入れ続けてくれている、特殊な空間だと思っている。


 そんな大切な組。この世で一番守りたいところ。当然、御子はこの世界で組を守って生きる事を望んでいるのだ。


「勿論、千里眼も使います。でも、それは心を読むためではありません。私の使い方は組長だって知っているでしょう?人の心なんて読まなくても、この稼業は務まります」

 御子は断言した。


「それはお前が千里眼だと、周りが知らずにいればこそだ。周りの人間がお前の力をあてにする時に、それを突っぱねて、やっていけるのかは分からないだろう?まして今回は、他の組の人間との腹の探り合いの中での仕事だ。そんな中で、お前の千里眼は知れ渡ってしまっている。組の外での仕事と言う以上に、普段よりも精神力が必要になるだろう。しかも、お前に何かしらの事があっても、我々もすぐには動けないかもしれん。それぞれの組のバランスを崩して、勝手な真似をしようものなら、抗争沙汰を引き起こす恐れもある。お前一人のために、それは出来ないのだ」

 組長はうろたえた表情を隠す事もなく、御子を説得しようとする。


「それも分かっています。全部分かった上で、お願いしているんです。この仕事をやり切って、この街の組が連携体制を取れると証明出来たら、私は十分にこの世界で生きていけると認められますよね?私はそれを何よりも望んでいるんです」

 組に守られたまま、適当に堅気の嫁に出されちゃたまらない。御子も必死だ。


 よその人間が、千里眼にどんな目を向けているか、肌身で知っているはずの御子に、ここまで決意されていてはさすがの組長にも止めようがなかった。


「分かった。お前がこてつ組に行くのを認めよう。ただ、今度の仕事は我々を頼れない事を忘れるな」







礼似から話があるとメールを受け取った時、御子はすぐに「良平だわ」と、思った。きっと、土間や礼似に、何かいったに違いない。いつもなら良平にさっそく文句の一つも言えるのだが、今回は隠し事をしたのは自分の方だ。


 いや、本当は隠すつもりではなかったが、言いそびれてずるずる過ごしたというのが正しいところ。でも、良平に心配かけているのは私の方だし。今だって、どんな選択をすればいいのか迷っている。迷いがある時は、自分の一番本音に近いものを選択すれば、たいていの事はよい方向に向かうのだが、今度ばかりは自信が無い。


 自分がこれだけ自信が無く、迷いがぬぐい取れずにいると、良平に言っても自分の迷いを押しつけるような気がして、何となく言い出しにくいのだ。それに……


 呼び出された神社の境内に向かう。御子が子供の頃に育った神社だ。なんとなく足が重くて、少しだけ約束の時間を過ぎてしまった。礼似は先に来ていたようだ。たぶん時間ピッタリに来たのだろう。こういうところは以外にきっちりしているのが、礼似らしい。普段の行動や、言動が大胆な分、こんな事で気をまわしているのだ。


「ごめん。遅れた。なあに?こんな妙な所に呼び出すなんて」

 自分から先に礼似に聞く。


「いきなり謝るなんて、しおらしいじゃない?」

 礼似はいつものように軽口をたたく。


「こんなところに呼び出すからよ。勿論、百も承知でそうしたんでしょ?人が悪いわ」

 御子は口をとがらせた。


 御子はここで拾われ、神主に育てられ、その親族に拒否されて真柴組に育てられた。因縁深い場所だ。


「あんた、ここで結婚式を挙げる事にこだわってた。土間の心を覗いた時も、ここに来た。だからここが一番あんたの心に響く場所だと思ったのよ。図星でしょ?」

 礼似が御子の目を覗きこむ。


「あんたといると、本当は千里眼なんて大したことじゃないんじゃないかと、本気で思えて来るわ」


「大したことじゃないのよ。少なくとも私にとってはね。あんたが勝手に自分の力を否定しているだけ。世間は広いわ。私みたいな人間だって、結構いるのよ」


「そうね。あんたや良平。土間もそうだし、お義父さんもそう。私の周りはそんな人ばかり。私、運がいいのね」


「運ばかりじゃないと思うけど。それで、あんたは何を良平に言えずにいるの?」

 礼似はストレートに聞いてきた。


 礼似の言葉があんまり真っ直ぐなので、御子は一瞬躊躇しかけたが、かえって思い切りが着いて答えられた。


「察しはついてるんでしょ? ……子供が出来た」


「やっぱり。あんたが良平に言うのをためらうことって言ったら、そのくらいだもんね。しかもためらうって事は」


「そう。何だか勘が働くの。この子も千里眼、持ってる。確信してる」


 会話が途切れる。二人とも言葉を探すのに手間がかかっている。


「今、言ったよね。私達にとっては大した事じゃないって」

 礼似はようやくそういった。だが、空々しさを感じて、すぐに口をつぐむ。礼似も両親の罪による偏見を受けて来た。世間の風の冷たさも知っている。まして千里眼。表面の冷たさだけでなく、人の本音の醜ささえも見えてしまう。傷つき方はまるで違う物があるはず。しかも、御子と良平は夫婦そろってこの世界の人間だ。二人がこの世界で生きていく限り、その風は一層冷たい物があるだろう。


「正直、迷ってるの。今のまま私達が育てていいのか。せめて、私の千里眼を引き継いでいなければ、素性を隠すとか、堅気の人に育ててもらう手もあったんだけど、おそらくそれは難しいでしょうね。ハルオですら、ウチで引き取ったくらいだから。下手をしたら、この子だって狙われ続けるかもしれない。千里眼なんて、突然変異的なものだと思っていたのに」

 御子は堰を切ったように話した。


「良平に、ちゃんと話さないと。迷うにしても、二人で迷わないと」


「私、良平には、組を継いでもらいたいのよ」

 ここだけは譲れない。そんな表情で御子は言った。


「それなら、良平と一緒に育てるしかないじゃない。迷う事なんてないわ。真柴で子供を守ればいいんだから」 


「それで子供は一生白い目で見られるの?人の心が見えるだけでも十分辛いのに、さらに偏見の目を注がれるわ。どれだけの重荷を背負わせるか、見当もつかない。せめて片親だけでも、堅気の暮らしをしていれば」

御子の言葉に、礼似は息を飲んだ。


「ちょっと。まさかあんた、一人で足洗って、子供を育てるつもり? ふざけんじゃないわよ! あんた、その真柴に育ててもらったんじゃないの。堅気が何よ! 親の事情や、生まれ持った特徴なんかで、人にレッテル貼りつける連中の方がおかしいんじゃない!」


「世の中はね、そのおかしい方が正しい事になってんのよ。私は子供を堅気の子として育てたいだけ」


「堅気で育てたって、千里眼でなくなる訳じゃないわ。傷つく時はどうしたって傷つく。世間の連中を、全員叩きのめす訳にもいかないんだから。あんた、今さら真柴を裏切ろうっていうの?」


「真柴は良平がいれば大丈夫よ。こてつ組の傘下入り後、組も安定してきたし、華風とだって、良平ならうまくやってくれる。私がいる必要なんてないわ」


「そういう事を言ってるんじゃないって分かってんでしょ? そんなことしたら、あんたは真柴での、自分の人生を否定することになる。そしたら、あんたを見守ってきた人たちを、どれだけ傷つけると思ってるのよ! それに、良平の事はどうする気? その子はあんただけの子じゃない。良平の子よ!」


 ここで、初めて御子の表情が揺れた。気負いの向こう側の素顔をのぞかせる。


「だから、迷ってるんじゃない。良平は、受け入れられるかしら?」


「あんた、よりにもよって、良平を疑ってんの?」

 礼似は怒りと戸惑いがないまぜになる。こんな御子は初めてだ。


「あんたは知らないのよ。男が父親になるってどういう事か。女は子を産めば、ほとんど自動的に母になる。でも、男はそうはいかない。真柴はね、ああいう組だから、訳ありの子をいっぱい見て来た。生んだ子に問題があれば母親は一気にたくましくなる。でも、男は急に強い父になる訳じゃない。強い男が、強い父親になるとは限らないのよ。悩み、苦しみ、戸惑い、乗り越えられない部分も出て来る。だからうまくいかなくて、ウチの門をたたく連中が、後を絶たないの。まして私は良平に組を継いでほしい。守り抜いてほしい。その上に千里眼の子の父親になる事なんて、本当に出来るのかしら?」


「出来るも何も、するべきでしょ。親なんだから」

 言いながらも戸惑いが抜けない。御子に見透かされていると思う。


「出来ない人間が多いから、ウチみたいな組があるのよ」

 御子は皮肉な笑顔を見せる。


「そうか。あんた、怖いんだ。口先でどういっても、良平にその子が厄介者だと思われたり、拒絶する心を見るのが怖い。だから、話す事も出来なけりゃ、自分達を守ってほしいとも言えないんだ。この、意気地なし!」


 御子はどう見ても、情緒不安定な状態だ。こんな場所に呼びつけるんじゃなかった。自分も今は、御子の態度にカッカしている。家族をろくに知らない自分に、当てつけられているような……いや、明らかにこれは当てつけだ。


「私、良平に言うわよ」

 礼似はむっつりという。


「勝手にすればいいわ」

 御子はそっけなく返す。


「そうだ、土間から伝言があったんだ」

 立ち去りぎわに、礼似は思い出した。


「何?」


「土間に初めて会った時、ハルオへの親心から、あんたの力に土間が脅えたのに、気づいていたのか?って」


「じゃあ、こう言っといて。そんなの自分で聞きに来な、って」御子はそう、言い返した。



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