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こてつ物語7  作者: 貫雪
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集められた三人の女達(一人は元、男性だが)は、こてつ組の組長室で、初めて顔を合わせた。

 

 お世辞にも友好的とは言い難い視線が、三人の間に飛び交っている。そこに組長が声をかけた。


「私が、こてつ組の組長だ。私も、こてつ組も、お前達の組の事や、個人の事に干渉するつもりはない。各組の事情に首を挟む気も、ましてや内情を探ろうとも思ってはいない。……信じるかどうかは勝手だが。だが、これだけは言っておこう。私は時流が変わりつつある今、この街の組が連携して、外からやって来る脅威に立ち向かう事が出来るかを知りたい。お前達の組が、本気で自分達の居場所を守る気があるのか、どうかをな」

 以外にやせぎすで、普通の背格好の、街最大の組織の組長である男は、そういった。


「額面通りに受け取るなら、たいした自信ですね。こてつ組はスパイされる事はないって、思ってる台詞ですよね」

 礼似はいつもの調子で不敵に笑いながら、挑戦的な言葉を口にする。


「その心配はない。お前達にはこてつ組にいてもらう必要はないのだから。やってもらうのは、私の妻の護衛だ」


「妻の護衛?」

 三人の声が思わず重なった。つい、目を見合わせて、それぞれが慌ててその目をそらす。


「正直に言おう。私は組をまとめるのにも、街をある程度守ることにもそれなりに自信がある。だが、妻には私の職業を知られたくない。妻とは父が亡くなる前、普通の勤め人をしている頃に出会って一緒になったので、妻は私がこの世界の人間だとは知らないのだ。そんな中で私が妻を守りきるのは……自信があるとは言えない」


 この街最大の組織の組長の妻が、夫の正体を知らない?そんなバカな事があるのか?三人は目を丸くする。


「そこで、直接、組とは関係のない妻の護衛を、お前達に任せてみる事にした。妻は私の最大の弱点だ。私はそれをお前達にさらけ出した。お前達がそれに応えてくれるかどうかで、おそらくこの街の裏社会の未来が決まる。私は本気だ。お前達の組の覚悟と本気を見せてもらいたい」

 そういう組長の目が、はっきりと色を変える。


 どうやら、組長の言葉は本当らしい。冗談のような話だが本気で自分達に妻を任せる事で、各組が連携を本当に計れるのか、試すつもりでいるようだ。


「気に入りました。あなたは本当に肝の据わった、器の大きい人のようです。私は喜んでお引き受けします」

 土間は礼儀正しく頭を下げた。


「私も引き受けるわ。そっちのあんたは?」

 礼似がもう一人に声をかける。


「お引き受けします。私はそのためにここに来たんですから」

 御子は誰にも視線を合わせずに言った。


「それで、この中で千里眼の女ってのはどっちなの?」

 突然礼似が聞いてきた。


「私よ。真柴組の御子です。よろしく」

 御子は初めて、礼似と土間に軽く視線を合わせた。


 この女の元に……真柴組にハルオはいる。ハルオは真柴組の掌中の中にある。私にとっては人質も同然だわ。土間は自然と御子に対する視線が強くなった。複雑な思いがよぎる。


「ふーん。あんたが真柴の千里眼ね。聞いたわ。あんたに嘘は通用しないって。私は今まで嘘を言いぬける事でずっと生きて来たの。人なんて信じにくいから。でもわたし、あんたを信用する。どうせ心を読まれるのなら、嘘ついても意味が無いからね。私は麗愛会の礼似。よろしく」


「あんた……どういう神経してんの? 私に心を読まれてもかまわないって、言ってるように聞こえるわ」


「かまわないわよ。こんな相手は初めてだわ。面白い。じゃ、あんたの方が元が男だったっていう華風組の刀使いね」

 礼似が今度は土間の方を向いて言って来た。土間も唖然としている。


「失礼ね。私、人の心を読んだりなんてしません。本当に必要な時、以外はね」

 御子は言い返した。


 この女に、ハルオの事を悟られてはならない。土間は御子を見ながら、ただ、緊張するばかりだった。

御子への緊張とは逆に、土間は礼似に対して怒りを抑えるのに必死だった。礼似のさっきの言葉を聞くまでは。


 土間にとって、麗愛会は宿敵だ。積もる因縁を感じずにはいられない。礼似はその麗愛会の女だ。

 麗愛会の名を背負ったこの女の前にいると、彼女自身にはなんの恨みもないのに、過去の感情がフツフツと沸いてきてしまう。あの時の怒り、憎しみ、悲しみ……


 ところがさっきから、この女の放つ言葉は何なのだろう? あまりにもあけすけだ。確か、この女は詐欺師をしていると聞いていた。人をだまして生きる人間が、こんなにも開けっぴろげでいいのだろうか? 戸惑わずにはいられない。


 そんな土間の視線に気がついて、礼似の方から話しかけて来た。


「華風の刀使いさん。あんた名前は?」


「……土間よ」


「あんたの華風組と、ウチの麗愛会は、ずっとソリが合わないみたいね。でも、私に関してはそこは気にしなくていいわ。私は麗愛会の中でも、外れ者だから。まあ、会長に言わせれば、厄介者か」

 そういうと、クスリと笑う。


「随分と、お喋りなのね」

 土間は慎重に相槌を打った。


「舌先三寸で生きてきた、女の癖みたいなものよ。私の嘘は商売道具。普段からそんなに使う必要ないわ。かえって効果が薄れるじゃない。でも、今回は、本気で嘘は封印よ。私、自分を試す覚悟で来てるんだから」


「試す覚悟?」


「そう。私は今まで誰とも組めない女だった。もし今回、あんた達とうまく行かなければ、私、組を抜けるわ。一匹狼でやっていく。因縁深い華風の刀使いと、嘘の通らない真柴の千里眼。私が人と組んでやれる女か試すには、最高の条件がそろってる。面白いわ。腹くくって、心くらい覗かせるわよ」

 最後は御子に向かって言ったらしい。


「読まないって、言ったでしょ。千里眼の使い道は、人のプライバシーを覗く事だけじゃないのよ」

 御子は反論した。


「土間、あんたも華風組の人間。麗愛会には色々恨みもあるんでしょ?どうしても私が憎けりゃ、別に斬ってもかまわないわよ。今更命も惜しくないから」


「私だって、意味もなく、人を斬ったりしないわよ。組織はともかく、あんた個人にはなんの恨みもないんだから。それに私、今は刀使いじゃないわ。もう、刀は持たないの」

 最初の感情を忘れて、土間も答えた。


 そして、ふと、三人は目を見合わせる。


 心を読まない千里眼。


 刀を持たない刀使い。


 嘘をつかない詐欺師。


 三人は、何となく、笑いだしてしまった。なんて面子が集まってしまったんだろう? なんて言う組み合わせ!


「礼似、あんた嘘をつくつもり本当にないのね。読まなくったって分かるわ。土間も見たところ、殺気を感じないし」

 御子は、あきれたような、感心したようないい方をした。


「一応は、たがいに信用できそうね。確かにこれは面白いわ。私も自分を試したくなった。組を離れてどんなふうに仕事が出来るのかをね」

 御子や礼似の言葉に、土間も共感したらしい。



「それぞれの紹介は済んだようだな。では、さっそく、私の妻の護衛にあたってもらおうか。資料はこれだ。妻の勤め先や、交友関係、日常のスケジュールが書いてある。こっちは妻の写真だ。くれぐれも、妻に気付かれる事のないように。頼んだぞ」

そう言ってこてつ組長は、三人に資料を手渡した。






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