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密やかな贈り物

作者: 桂螢

間違いなく、絶縁した母の名前だ。昭和の匂いが染み付いた、古風な名前だ。娘の私にも、自身の名に似通った、古臭い名前をつけた。


歯科技工士の私のもとに今日、患者名が不仲の母の名である、総入れ歯の注文が入った。酒もたばこもたしなわず、私の古い記憶をたどると、私が小学生の頃にはすでに、神経質なくらい、健康に気をつけていた母が、とうとう総入れ歯。齢七十だから、無理もない。


会わなくなって十年。私の祖父であり、母のお父さんがなくなってから、関係が余計にこじれ、いさかいが増した。五十代前半から、徐々に言動が幼くなり、働くことを拒否し、引きこもりになった母。知人に相談すると、認知症かもしれないと言われた。母と私は、考え方も生き方も違いすぎる。救いがない顛末である。


恨みはあるが、歯科技工士の名折れは死んでも嫌なので、総入れ歯は丁寧に作り上げた。私が精一杯できる範囲は、ここまでだ。自分を大切にし、自分のために生きていくことを決めたのだから。

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