火雷鳴る地吹雪の調査班 1-3
隊長「それは本当ですか!?」
周囲の幹部も頷く
幹部2「酷い話です・・・これは明らかな裏切りです」
幹部3「その通りです」
隊長「なぜそのようなことが・・・」
幹部1「国内には様々な政治派閥がいるのはご存知ですね?」
隊長「はい」
幹部1「この国は御三家と呼ばれる、この国を創った3英傑の末裔がおられます。そのうちの一つがヴァルクルース家です。御三家は今でも根強い人気があり、特にヴァルクルース家はそれが顕著です。ですが、中には大公という存在を嫌う者がいます。大公そのものがこの国の平穏を乱すと」
隊長「・・・」
幹部1「ヴァルクルース家は傭兵が家業です。その功績により、家督を継ぐ者は国防軍、遠征軍、警察、海上警察の全ての頂点に位置する、名誉統合司令長官に任命されます。その任務に対する姿勢は真摯で、それ故に国民からの人気も凄まじいです」
隊長「ですが平和実現を妨げたり過大権力だという声があるのも事実です」
幹部1「えぇ、あなたのお爺様は一線を退き名誉統合顧問、お父様は名誉統合司令長官、弟様は防衛大臣。政界にも影響力は大きく、それをよく思わない勢力がいます」
隊長「それで私を・・・」
幹部1「えぇ・・・」
隊長「戦死してくれと?」
幹部1「まだ確定はしてませんが・・・それを狙う動きがあると」
隊長「待ってください。派遣先の決定は遠征軍統合参謀司令部が行なっているはずです。となると身内が・・・!」
幹部1「ご令嬢。参謀司令部は最終決定こそしますが、選択権は持ちません。外交問題にもなりかねない傭兵派遣には、政治が絡みます」
隊長「・・・」
そうだ。派遣先は中央省庁が決める。政争が激しいとは聞いていたが、ここまでとは・・・
幹部1「外務省に財務省など、様々な中央省庁が絡んでます。中でも大きな影響力を持っているのが、治安維持庁の対外情報局です」
隊長「・・・」
幹部1「今まで制御できていた遠征軍があなたの影響で制御が難しくなったと感じたのでしょう。遠征軍は仕事がない者や罪人もいます。ゴミ処理場とも呼ばれます。そのように揶揄されるのは非常に不愉快な話ですが、そんな側面も持ってます」
隊長「っ・・・」
幹部1「我々もあなたも、国内で力を握ろうとする者にとっては目の上のたんこぶ。その上、時には派遣先の政治体制まで変えてしまうその影響力は、世界各国が懸念を示してます。それと・・・この事態に拍車をかける勢力が・・・」
隊長「?」
幹部1「検察と警察です」
隊長「!」
幹部1「あなたのお爺様は全ての実力組織を統括する元名誉司令長官ですが、司法組織に対する権限は警察を除いて持ちません、公平性が薄れますので。実力組織に対する監視の役目も検察が担ってます。ですがあなたのお爺様が・・・」
隊長「冤罪を隠蔽しようとする警察と検察に厳しい対応をした」
幹部1「はい。捜査を担当する警察と、それを元に裁きを求める検察。間違いがあってはなりません。メンツもありますし、間違いが多ければ国民からの信用を失います。
したがって過去には多くの冤罪、冤罪と考えられるものをかけてきました。それを暴いたのがあなたのお爺様、現名誉顧問です」
隊長「それに対し恨みを抱いてると?なんてことを・・・彼らは人の人生の左右を決めているのですよ!?」
幹部1「組織は時に人命よりメンツを重要視します」
隊長「・・・」
隊長「そういえば・・・過去に指摘を受けた検察幹部が、“間違いを指摘することにより迅速な捜査、起訴ができなくなり、将来救えるであろう多くの人命を救えない”と言ってました。“間違い”、ですか・・・決して彼らは“冤罪”だとは言いませんでした」
幹部1「組織とはそういうものです。大事なのはメンツなのです。我々は、メンツなんぞ守っても利益に繋がりませんので、こういった話はあまり聞きませんが・・・。税金で生きてる者と、信頼で生きてる者の差でしょうか」
隊長「法執行機関も信頼で生きてます」
幹部1「それは二の次です」
隊長「・・・」
幹部1「治安維持が専門の警察は常々、名誉統合司令長官の指揮下からの離脱を要望しています。戦争屋に色々言われる筋合いはないと。検察も、同じ法執行機関である警察は独立すべきだと主張してます。両者の距離は非常に近いです。
なので尚更、お爺様に横槍を入れられた事が残念なのでしょう」
隊長「・・・」
身から出たサビじゃないか。職務に実直に向き合えば起こらないハズだ