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中学教師園崎凛  作者: finalphase
第2章 中学1年生2学期編
93/137

第93話 クラスを超えた感動

1年4組の演奏は大変素晴らしかった。


1組の繊細さと2組の元気さ、3組の一体感、そして4組の個性すべてを兼ね備えている。


あの後、3組は過去最高の出来で合唱と合奏を終えたが、4組の合唱、そして演奏を聴いて、私の心には多少の不安がよぎった。


「大丈夫よね...あんなに一生懸命練習してきたんだし...」と心の中で呟く。


今回だけは、あの子たちに優勝をさせてあげたい、そんな想いを密かに抱く。


そしていよいよ、結果発表。


私は結果を聞くのが怖くて、無意識のうちに耳を塞いでいた。


「園崎先生、園崎先生!」


聞き覚えのある声でふと我に返る。


「牛島さん?」


「園崎先生、私たち優勝したよ!」


「え?おめでとう。たくさん練習してたもんね...」


思わずハンカチで涙を拭った。


「もう大げさなんだよ、園崎先生は。」


佐紀がそう言うと、他の教え子たちも一斉に笑った。


2年生、3年生も各クラスの優勝者が決まると、音楽祭も最終章に突入。


「まずは1年3組の皆さん、改めまして1年生部門での優勝おめでとうございます。優勝記念に、10分ほどした後、もう一度ステージの上で合唱をして頂きたいと思います。宜しくお願い致します。」


そう、各学年優勝したクラスはもう1回ステージの上で合唱を行う。


10分という短い時間に1年3組ではこんな話し合いが行われていた。


「みんなお疲れ。優勝なんて夢みたいだね。」


「うん。本当に良かった。裕太も出れたしな。」


「けどよ、初めの挨拶は誰がするんだ?」


「そういえば決め手なかったわね、それ。」


中村裕太が小さく手を挙げた。


「その、僕がやりたい。最初の挨拶...」


「えぇ!?」、クラスメート全員が驚く。


「おい、大丈夫か? 裕太人前で話すのとか得意な方じゃねーだろ。」


「うん...でも、僕やりたい。」


裕太が力強く頷いたのを見て牛島佐紀が口を開いた。


「やりたいって言うんだからやってもらいましょうよ。」


彼女の言葉に異議を唱える者はいなかった。


こうして、中村裕太はステージの一番前に出た。


「皆さん、今日は僕たちの演奏を聴いてくださりありがとうございます。僕は学校という場所が正直苦手で、来れていなかった期間も長かったです。小学校では"お前は障碍者だ"などと言われて毎日のようにいじめられていましたし、中学校に入ってもそんな地獄のような日々が続くんだろうなって思ってました。けれど、担任の園崎先生や3組のクラスメートたちがこんな僕にもとても暖かく接してくれました。僕は両親の仕事の都合で1週間後に転校します。3組のみんながこの日まで練習を一生懸命頑張ってくれていたのは、僕のためでもあるんです。でも、みんなはそんな気持ちを表に出すことはありませんでした。1年3組は控えめに言って最高のクラスです。皆さん、本当にありがとうございます。」


裕太がクラスメートの方を見て頭を下げると、多くの生徒が涙した。


その後は、まともな合唱にはならなかった。


みんな、泣くことでいっぱいいっぱいだったから。


その時である。観客席にいた4組の生徒たちが一斉にステージに上がった。


そして、「奇跡の惑星」を歌い始めた。


彼等はこの曲を練習したことは無い筈なのに...準優勝という結果で悔しいという気持ちもある筈なのに...


「何て良い子たちなんだろう...」


私は純粋にそう思った。


クラスを超えた感動は、多くの観客の心を魅了した。

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