第92話 奇跡の惑星
「皆さん、おはようございます。
ただいまより、 第23回森浜祭を開会いたします。
本日はお忙しい中、ご来場いただきました来賓の皆さま、保護者の皆さま、誠にありがとうございます。
皆さんも知っての通り今年の文化祭のテーマは「未来へつなぐ、一人ひとりの光」です。
準備の中では、大変なことや思うようにいかないこともありましたが、それを乗り越えて今日という日を迎えられたことを、とても嬉しく思っています。
今日と明日の2日間、皆さんが笑顔で、そして思い出に残る時間を過ごせるよう願っています。
どうぞ、最後まで文化祭をお楽しみください。
それでは、いよいよ森浜祭スタートです!」
生徒会長の挨拶と共にメインイベントが開催される。
まずは校歌斉唱。
3組はここで存在感を示し、気持ちの良いスタートを切った。
そして、いよいよ音楽祭のスタート。
1組は繊細で綺麗な音色、2組は元気いっぱいな合唱だった。
次は、いよいよ3組の出番。
指揮の牛島佐紀が伴奏者の水野真理に合図を送る。
真理のダイナミックかつ美しい演奏、そして佐紀のパワフルな指揮が場に一体感をもたらす。
伴奏が終わると、一斉に歌い始める教え子たち。
「この青い星に 灯りともる
いのちのささやき やがて響く
海は運ぶ 潮の調べ
山は語る 時の歌
風はささやく 生命の鼓動
緑は呼ぶ 未来への詩
手と手をつなぎ 心をひとつに
夢と希望 ひびきわたれ
ひとりの声が 世界を編む
共に生きるための 祈りとなれ
奇跡の惑星 この青い地球
愛といのち 今、響かせよう
未来へ架けよう 光の架け橋
Together we sing for earth, our precious home 」
私は合唱の途中で思わず涙を拭った。
「ついに、ここまで来た...」と心の中で思った。
今まで数えきれないほど、色んなことがあった。
ここに赴任して初めて教壇に立ったときは、教え子たちに私の話を全く聞いてもらえなかったっけ。
それから、度重なる授業妨害や深刻ないじめもあったし、生徒たちの色んな悩みや相談にも付き合った。
1組、2組の演奏も素晴らしかったし、優勝できるかどうかは分からない。
でも、今この場この瞬間の合唱は、みんなの努力の積み重ねが伺える素晴らしいものだって思う。
牛島佐紀が、最初の挨拶をあっさりと述べた点も私の心を打った。
「中村裕太が約1週間後に転校するから、短い間だけでも彼にこの学校での思い出を残してあげたい」という気持ちが彼女の心の中にも、彼女のクラスメートの心の中にも多少なりともある筈だ。
けれど、そんなことを微塵も感じさせない、音楽祭を真正面から突破しようとする教え子たちの姿は、とても美しく感じられた。