第83話 音楽祭実力行使計画
「みんなも知っての通り、中村裕太君は来月に転校する。そのことを音楽祭の挨拶で伝えれば同情票が入って優勝に近づくと私は思う。けど、それじゃ実力で勝ったことにはならない。私はクラスの実力だけで優勝を勝ち取りたい。」
ある日、牛島佐紀は皆の前でこう言った。
「良いね、その精神、格好良いぜ。」
森本猛が全力で拍手を送る。
「私も、佐紀さんの意見凄く良いと思うな。みんなはどうかな?」と真理。
学級委員長の彼女の意見に多くの生徒が賛同する中、数は少ないものの反対する声もあった。
「確かにそれで優勝したら格好良いけどよ、優勝できない可能性を高めることにならねーか?」と博。
「確かにそうだな。けど、裕太のことを最初に言って同情を貰うのはちょっとダサくないか?」と裕也。
そう、音楽祭の順位は各クラスの生徒及び教師の投票によって決まる。
投票数の多い順に優勝、準優勝、3位、4位が決定されるわけだ。
だから、合唱あるいは合奏の前のスピーチで票を入れたくなるようなことを言えば、多少票数をかさ増しできる可能性がある。
けれども、3組の多くの生徒はそんな姑息な手を使うことなく、実力で優勝を勝ち取りたいと思っていた。
「ちぇっ。それが民意ならしょうがねーな。民主主義の定めだ。」、空気を読んだ植松博が吐き捨てるように言った。
そして「ただし、ただしだ、その代わり絶対優勝するぞ。あと、前から思ってたんだが、合唱の配置は歌が得意じゃない人の周りに歌が上手い人を置くのが良いと思うんだが、どうだ?」
彼の意見には多くの生徒が賛成した。
森本猛は心の中で呟いた。
「Democracy is a political system in which citizens participate in the politics of their country and make decisions. Specifically, it refers to a system of government in which citizens make decisions that affect society as a whole, either directly or through elected representatives. I remember that well! I'm a genius!(民主主義とは、国民が国の政治に参加し、意思決定を行う政治体制のことだ。具体的には、国民が直接または選挙で選ばれた代表者を通じて、社会全体に関わる決定を行う統治制度を指す。良く覚えてる!俺、天才!)」
そして、博の方向を向いて優しく語り掛ける。
「お前、たまには良いこというじゃん。」
「たまにはとは何だ、失礼な。」
「じゃあ、決まりだね。みんなで力を合わせて音楽祭を最高のものにしよう!」と天使。
「何で天使がまとめんだよ。そこは合唱リーダーの佐紀か学級委員長の真理のセリフだろ。」
秋田健が冗談めかして突っ込みを入れると、クラス中が笑いの渦に包まれた。
合唱リーダーと呼ばれた佐紀も、決め台詞を言った天使も、突っ込みを入れた健も、その他の生徒も、そして、教師である私も「今度の音楽祭を最高のものにする!」という気持ちは1つだった。