第80話 植松博の独白
俺の名は植松博。浜森中学に通う1年生。
自分で言うのも何だが、俺は運動ができる。
男子バスケ部に所属し、毎日練習に励んでいる。
筋トレは最早日々当たり前のルーティン。
そんな俺は、勉強が大っ嫌いだ。
だが、最初からこんなに嫌いだったわけではない。
小学生の頃はどちらかというと、勉強は好きだった。
分からないことが分かるようになるのは楽しいし、それが人生の役に立つなら一石二鳥だ、そう思っていた。
そんな俺を見た父親は、俺に中学受験を進めた。
当時は純粋でピュアだったから、頑張って挑戦してみたいと思った。
目指すは京東県でもトップクラスの偏差値を誇る私立中高一貫校、慶東中等教育学校。
小学4年生から、猛勉強する日々が続いた。
友だちと遊ぶ機会は減り、人生の楽しさは半減した。
そこまでしてでも慶東高等学校に受かればきっと人生ばら色になるはず、そう思っていた。
けれど、結果は不合格・・・
目の前が真っ暗になった。今まで何のために勉強してきたのか。
遊ぶ間も惜しんで重ねた努力はすべて無駄だったのか。
自問自答を繰り返した。
まさに努力が裏切られたという気分を存分に味わったわけだ。
それからというもの、俺は勉強を憎むようになった。
授業妨害も積極的に行った。
そんなわけで、今でも俺は勉強を憎み、バスケに精を出している。
俺がスポーツにおいて大切にしているマインド、それは「何が何でも勝つ」ということだ。
これは俺が受験を通して学んだことでもある。
どれだけ努力を重ねても、目標とする学校に合格できなければ意味がない。
俺は受験という分野で一度負けた人間。
だからこそ、運動という分野では絶対に負けるわけには行かないんだ。
スポーツの持つ魅力なんて関係ない。俺にとっては勝つことが全てだ。
それは趣味のゲームでも同じこと。
「勝負事は勝利が全て」という哲学を心の中に宿している俺にとって、意識せざるを得ない存在が1人いる。
同じクラスの森本猛だ。クラスメートは俺が奴のことを嫌っていると思っているようだが、それは少し違う。
確かに奴のことは好きではないが、嫌いというわけではない。ただ、奴とは根本的に考え方が合わないのだ。
彼は勝ち負けよりも、楽しむことを重視する傾向にある。ゲームを楽しむことさえできれば、結果は二の次という精神がそこにある。
これが俺には許せない。また、運が悪いことに彼は俺と同じ男子バスケ部に所属している。
技術面は互角なので、勝負はこれからだ。
彼は俺にとって良きライバルなのだ。