第8話 乙女の悩み
それにしても小林侑李とはどんな生徒なのだろう。
先ほど言われたことが鮮明に心に焼き付いている。
「面白い、授業かぁ... 確かに私の授業はまだまだ未熟だし、もっと精進しないと。はぁ。やっぱ教員ってちょっと辛いな... いやいや、凛、この程度のことではこの職業は務まらないわ。気持ちを切り替えていくのよ。」
心の中で呟く。
次の面談者は、小山ありさだ。
田辺日和をいじめたことに関して、彼女は意外にもあっさり事実を認めた。
「何でそんなことしたの? やっちゃいけないことだって分かってた筈でしょ...」
「はい、実は...うち、好きな人がいて...」
「好きな人?だれだれ?どういう人なの?」と目を輝かせて聞きたいのを我慢する。恋愛話を聞くより、今は職務に集中だ。
「あの、先生、驚かずに聞いてください、うち、男の人に興味なくて...」
「ってことは女の子には興味あるってこと?」
「はい、そうなんです、、うちが好きなのは...」
彼女はそう言って大きく息を飲み込んだ。
「うちが好きなのは斎藤るなさんです。」
凛は驚きを表に出さないように平静を装った。
「はじめはただの友達だったんですけど、るなと一緒にいたら楽しくて、こう、胸が締め付けられるような少し切ないような気持になって、それが恋心だって気づくのに時間はかからなかった。うちだっていじめはいけないことだって分かってます。でも、るなの言うことは全部聞きたいんです。理屈を超えたところに彼女想う気持ちがあるから...」
彼女の真剣な表情、輝く瞳に凛は頭を抱えた。ただでさえ複雑な人間関係が余計複雑に...
「好きな子の言うことを全部聞きたいって気持ちは大切よね。でも、その子が間違った方向に進まないように導いてあげるってのも大切なんじゃないかしら。」
凛の言葉にありさは暫く考え込む。
そして再び息を飲んから言った。
「そうですよね。うちが間違ってました。大切に思う人がいるなら、その人のためになることをすべきですよね。今後、行動を改めてみます!」
今目の前で話している彼女は普段の気怠そうな表情とは違い、とても輝いている。
「ありささん、ありささんから見てるなさんはどんな人?」
「そうですね。優しくて可愛くて気遣いができて、フィリピン語が上手でスタイルも良くて、足も長くて、運動神経も抜群で... 話しきれないほど良いところはたくさんありますが、うちが一番好きなのは友だち思いなところです。」
彼女はそう言って凛に向かってウィンクをした。