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中学教師園崎凛  作者: finalphase
第2章 中学1年生2学期編
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第78話 不登校脱却

 私たちのクラスがいつものように朝の合唱練習を行っていると、教室の後ろのドアが静かに開いた。


私とクラスメートの視線が一点に集まる。


長い間保健室登校をしていた中村裕太の姿がそこにあった。


不登校の期間が長かった彼にとって、保健室登校でもそれなりにハードルが高かったと思うが、その壁をも乗り越えてワンランク上のステージに到達したように見受けられた。


「裕太君、久しぶり。」と自然に声をかけた後に、私は心の中で「しまった。」と思った。


案に「長らく会っていなかった=学校に来ていなかったけど大丈夫だったか」という圧を本人にかけてしまうことになるかもしれないと思ったから。


けれど、彼はそんなことを気に留める様子も見せず、「お久しぶりです、園崎先生」と少しはにかみながら言った。


クラスメートたちも、次々と彼に向かって声をかけた。


「おぅ。久しぶりだな。」、と裕也。


「久しぶり。大丈夫だった。」と真理。


「あんた、暫く見ない顔だったけど、これからよろしく。文化祭でやる合唱と合奏、それから演劇、今から猛練習してもらうから。」と佐紀。


裕太は静かに頷いた。


彼の心境にどんな変化があったかは分からない。


けれど、そんなことはどうでも良いのだ。


「学校に来れる、そしてクラスメートに話しかけて貰える」状態が大切なのだから。


このように、「原因が分からなくても結果だけ解決すれば良い」という見方は学校現場においてはしばし大切になる。


この日は、裕太も途中参加で合唱の練習を行った。


それが終わると、佐紀がクラス全体の前で侑李と天使に声をかけた。


「ねぇ、侑李、それに天使、話したいことがあるんだけど、このあとちょっと良い?」


2人は身構えながらも佐紀の話を聞くことにした。


私の心の中には緊張が走った。彼女たちは、過去に揉めたことがあったのを思い出したから。


けれど、今は生徒のことを信じてみよう、そう思った。


もちろん誰かが傷付くような状態であれば、早急に教師の危機介入が必要だ。


けれども、今、3組というクラスは確実に良い方向に向かっているし、人間関係のトラブルも直近では起こっていない。


だから、私は今回の件は彼女たちに委ねることにした。



 佐紀は、侑李と天使を呼び出すと唐突に頭を下げた。


「その、今まで酷いことしてごめん。」


普段から強気で自我が強い彼女が、真剣な表情で謝ることは珍しい。


侑李が反応に困っていると、天使が先に口を開いた。


「今までのこと、許したわけじゃないから。多分一生忘れられないと思う。けど、佐紀にも意外と良いとこあるんだね。合唱頑張ろ!」、そう言って手を差し出す。


佐紀は、天使と握手を交わした。


また1つ、クラスメート同士の新たな絆が誕生した瞬間だ。

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