第75話 心を1つに!
合唱で最も大切なこと、それは何といっても、心を1つにすることだ。
それはいわば、全体でハーモニーを奏でる団体競技。
1人の生徒が特段上手いだけではダメ。全員で1つのものを作り上げるという気持ちが大切だ。
ピアノの伴奏は水野真理、指揮は牛島佐紀である。
真理は推薦でこの役割に決定したが、佐紀は自分から立候補した形である。
彼女は少し独善的で協調性に欠ける一方、音楽は比較的得意な方で、またリーダーシップがあるという長所も持ち合わせている。
教員は、1人の生徒を、1つの側面だけで判断してはならない。
いかなる生徒であっても、悪いところもあれば、良いところもあるものである。
佐紀は、やる気になれば熱心にやるタイプで、大の負けず嫌い。
「みんな、やるからには優勝を目指すよ。この前の体育祭みたいにはならないようにしないと。」
彼女は、練習中も熱心にクラスに訴えかけていた。
「良い?みんな。私たちは、1年3組として歌うんだから、気持ちを1つにしなきゃダメよ。普段は仲悪い子とも合唱では協力するのよ!」
「佐紀の奴、すごい張り切ってるな。」と真由。
「侑李や天使たちへの対抗心はどこ行ったのよ。みんなの前だと格好つけたがるんだから。」とまどか。
「美月、あんた、相変わらず凄い音痴ね。けど、確実に上達してるわ。その調子よ。」
佐紀が美月を名指しで褒める。
「佐紀が、人を褒めることあるんだ。」、侑李が囁く。
「確かに。何か良いことでもあったんじゃない。」と真美。
「ほら、そこ、集中する!侑李と真美は体育祭の時みたいな足の引っ張り合いはしないでよね。もう1回歌うよ。真理、お願い。」
今日の佐紀はやる気に満ち溢れていた。
この青い星に 灯りともる
いのちのささやき やがて響く
海は運ぶ 潮の調べ
山は語る 時の歌
風はささやく 生命の鼓動
緑は呼ぶ 未来への詩
手と手をつなぎ 心をひとつに
夢と希望 ひびきわたれ
ひとりの声が 世界を編む
共に生きるための 祈りとなれ
奇跡の惑星 この青い地球
愛といのち 今、響かせよう
未来へ架けよう 光の架け橋
Together we sing for earth, our precious home
生徒たちが、歌い終えると私は心を打たれた。
3組には、勉強は苦手な子が多いけれど、音楽が得意な子は多いということが分かった。
けど、私が心を打たれた一番の理由、それは一体感のある美しいメロディーを生徒たちが作り上げていたから。
「この調子で練習を重ねれば、本当に優秀が狙えるかもしれない。」
私は期待を膨らませていた。