第74話 ミュージックミッション
「じゃあ、美月さん、練習しよっか。」
「うん...」
山田春奈は、休み時間に音楽室で井上美月の練習に付き合っていた。
音楽の専科である望月楓先生の許可は既に貰っている。
「まずは、私が奇跡の惑星を歌いながら、ピアノを弾くから、聴いてみて。」
そう言って、春奈がピアノを弾き始める。
静かで繊細な美しい音がそこに流れる。
伴奏が終わると同時に、春奈が歌い始める。
この青い星に 灯りともる
いのちのささやき やがて響く
海は運ぶ 潮の調べ
山は語る 時の歌
風はささやく 生命の鼓動
緑は呼ぶ 未来への詩
手と手をつなぎ 心をひとつに
夢と希望 ひびきわたれ
ひとりの声が 世界を編む
共に生きるための 祈りとなれ
奇跡の惑星 この青い地球
愛といのち 今、響かせよう
未来へ架けよう 光の架け橋
Together we sing for earth, our precious home
この「奇跡の惑星」という歌は、3組が話し合いで選んだ合唱曲だ。
天地や生命への始まりへの敬意を表す静かな導入である序章、海・山・森・風など自然の営み、力強い生命を表す第1部、 愛・希望・共生の象徴としての人間社会、人と人との繋がりを表す第2部、そして、「奇跡の惑星」である地球を未来へ繋ぐ決意と祈りが込められた終章の全4パートで構成されている。
ちなみに、序章はソプラノ・アルト、第1部は全員、第2部はテノール・バス、終章は全員で歌うことになっている。
春奈がピアノを弾き終えると、美月は思わず拍手をしていた。
「凄い、凄いよ。春奈ちゃん。優しくてとっても綺麗。春奈ちゃんってそんな特技もあったんだね。」
「特技ってほどじゃないよ。ミスタッチも多いし、水野さんみたく完璧にはいかないもの。」
「それでも、私は春奈ちゃんのピアノの方が好き。」
「そう?ありがと。」
美月の言葉に少し照れる春奈。
次は、メトロノームに合わせてリズムを取る練習をしてみよっか。
まずは4拍子の曲から行ってみよっか。
私が「冬の始まり」を弾くから、メトロノームに合わせてリズムを取ってみて。
「うん!」
その頃、牛島佐紀たちのグループは校庭で遊んでいた。
彼女たちは、運動量が多い活発な生徒なのだ。
「なぁ、佐紀。リズムすら取れない意気地なしの美月をいじめなくて良いのか?」
真由が佐紀に問いかける。
「山田春奈に教えてもらってるんでしょ、音楽。まあ良いんじゃね、あいつなりに頑張ってるみたいだし。苦手を克服したらまたグループの一員として認めてやろうぜ。」
彼女は静かに呟いた。