第71話 教え子の相談
私、園崎凛。今日、私は教え子の渡辺響から相談を受けている。
彼からの相談内容は以下のとおりである。
「勉強のやる気がどうしてもでません。どうすれば良いでしょうか。」
確かに彼は今まで提出物を出したことがほとんどない。
けれど、勉強をした方が良いという意識はあるようだ。
このような質問をされた時、私はいつも返答に迷う。
無理にやらせようとするのも良くないだろうし、だからといって放っておくわけにもいかない。
私は、いつも自分の好きな科目から手をつけるようにと伝えている。
数学、国語、理科、英語、社会の5科目の中で渡辺響が一番好きな科目から手をつけ、徐々に苦手科目にも向き合えるように努力する。
渡辺響は社会が特に好きだとのことなので、まずは社会の課題の提出率を上げることを提案した。
教え子からの相談に答えることも、教職員の職務の1つである。
そのためには、日頃から生徒1人1人の様子を良く見ておかなければならない。
性格や家庭事情はもちろんのこと、特に生徒の長所と短所を把握しておくことが大切となる。
渡辺響の良さは運動ができる、コミュニケーション能力が高い、パソコンが得意であるという点であり、逆に短所は勉強をしない、努力が苦手、家庭科が苦手という点である。
彼は運動全般が得意なので、「勉強ができなくても運動ができるから大丈夫」という意識もあるようだ。
私のアドバイスがどの程度役に立ったのかは分からないけれど、彼は社会の課題に熱心に取り組むようになった。
次いで、英語、社会と徐々に提出率も上がり、好循環の波ができあがっているように思われた。
けれど、問題は理系科目だった。
勉強の中でも数学や理科が特に苦手な彼にとって、理数系の宿題に取り組むことには抵抗があった。
渡辺響は再び私のところに相談に来て、「数学と理科の宿題が全く分からないです。何が分からないかも分からないからどうしようもないし、課題を出していないという罪悪感から丸山先生や鈴木先生には相談しづらいです。」と言った。
そこで、ついつい「私のところに聞きに来てくれれば分かる範囲で教えるよ。」と言ってしまった。
私には素直な気持ちを話してくれるから嬉しいという気持ちもあったし、彼の勉強に関する悩みを解消してあげたいという気持ちもあった。
けれど、私は国語の教師。数学は学生時代に一通り勉強してきたけれど、忘れているところも多い。
「念のため復習しておくか。」、私は自宅に帰ると中学数学の教科書を取り出した。