第70話 衝撃の事実
私、園崎凛は今日、学年主任の丸山望に呼び出された。
飯沼浩史がこの学校を去ってからは、彼女が学年主任を引きついたのである。
何でも、実習生の原田幸喜の件で話があるそうだ。
私は胸が締め付けられるような思いだった。私がもっと上手く接することができていれば彼をあんな目に遭わせずに済んだかもしれないから。
教師の職務を熱心に全うし、できるだけあの日のことは考えないようにして来たけれど、その名前を聞くとどうしようもない後悔が押し寄せてきた。
丸山は私を誰もいない図工室に案内した。
「実習生の原田君のことなんだけどね、」
私は息を飲んだ。
「そんな泣きそうな顔しないで。あなたのせいじゃないのよ。」
「え?」
「あれは松山と今泉が悪いの。あんなのが、校長と教頭なんて信じられない。彼らはね、原田君にパワハラを行っていたのよ。そして、弱った彼が自殺でもしたら、その責任をすべてあなたに押し付ける計画を立てていた。」
この事実は衝撃だった。生徒に道徳の模範を示すべき教員のやる行為とは到底思えない。けど、だけど、私がもっと上手く対処できていれば、もっと強い人間だったら、あんなことにはならなかった...
私は唇を噛締めながら言った。
「だとしても、原田君があんな目に遭ってしまったのは私の責任です。もっと早い段階で対処できていればあんなことにはならなかったはずですから。」
「そうね。けど、あなたはあの時松山と今泉からパワハラとセクハラを同時に受けていて、とてもそんな精神的余裕はなかった。彼らはあなたが原田君の力になれないような状況を故意に作ったのよ。教師である前に、1人の人間としてどうなのかしらね。私は準備が整ったらこの件を世間にリークしようと思っているの。私が言いたかったのはそれだけよ。」
彼女はそう言うと颯爽と立ち去った。
渡辺響はその日も家で悶々としていた。
床の上にはその日にやるべき宿題が散乱している。
「将来の選択肢を広げるために、勉強は大切だ」という大人の意見は分かる。けれど、どうしてもやる気になれないのだ。
サッカーにテレビに、ゲーム...
この世には勉強よりも遥かに面白いものが山ほど転がっている。
それらと比べると、勉強はどうしようもなくつまらなく思えた。
けれど、このまま課題を提出しない生活を続けるわけにはいかないことくらい分かっている。
母親に相談を持ち掛けると、「担任の先生にでも相談してみたら?」という答えが返ってきた。
「そんな相談に乗ってくれるかな?」と尋ねる彼に母親は微笑んでこう言った。
「そのための担任だよ。大丈夫、親身になってくれるって!」