第7話 魔境の女
凛は、浅野真美という生徒のことが気になっていた。普段の彼女は、明るくて温厚な印象がある。けれど、金子沙織の話を聞く限りが正しいとすれば、彼女は闇深い裏の顔を持っているのかもしれない。彼女がそんな生徒だって信じたくない。だけど、沙織さんのことも信じたい。
「ああ、もうどうすれば... 駄目よ、凛、そんなことでは教員は務まらないんだから!」
自分の頬を叩いて気持ちを奮い立たせる。
次の面談者は小林侑李。
田辺日和をいじめた関係者の1人だ。
彼女は、教室に入ってくるなり衝撃の一言を言い放った。
「めんど。あんたと話すことなんて何もないって。」
「あんたって何よ?」と言いたいのをぐっと堪えて、笑顔で冷静に対応する。
「まぁまぁ、そう言わずに。気楽な面談なんだからもっとリラックスして?」
「園崎凛さん、あなたはどうせ私に田辺日和をいじめたかどうか聞きたいんでしょ?言っとくけどね、私はやってないから。それに、私はともかく、真美が人をいじめるような女だと思う?」
目元までかかった髪が不気味な発色を放つ。
鋭い目つきも相まって謎の迫力が増す。
「侑李さんは友達思いなのね。その件に関しては今情報を整理してるところよ。」
「そのことに関して私から話すことは特にありません。満足ですか?」
「侑李さん、ちょっと待って。他にも聞きたいことが」
「何ですか?」
その後、凛は彼女に色々なことを聞いた。学校生活や趣味のこと、友達のこと...
彼女はこれらの問いには素直に答えてくれた。
しかし、「学校の授業はどう?」という質問に対して、再び衝撃の答えが返ってきた。
「正直言ってつまらないです。」
凛の胸の鼓動が高鳴る。そのことに関しては十分自覚しているからだ。指導案を頑張って書いて授業をする。けれど、生の授業とでも言うべき実際の授業は計画通りにはいかないし、何より凛は自分の授業映像を見て非常につまらないと感じたことがある。
「その反応、心当たりがあるようですね。子どもたちに授業中に眠ったりゲームをしたりするのは辞めろという先生もいますが、そのようなことをしてしまうのは授業がつまらない証拠です。教師は教えるプロフェッショナルなのだから、ゲームをするよりも面白いと思える授業をしてほしいです。」
彼女は力強く言い切ると教室を後にした。
あまりの希薄に凛は暫く開いた口が塞がらなかった。
一体、あの子何者なんだろう。
ふと口からこんな言葉が漏れた。
「魔境の女...」