第69話 優等生の苦悩
私、水野真理。
幼い頃から勉強が得意だった私は、周囲からは優等生と認識されていた。
勉強、運動に音楽。どんな分野でも練習すればクラス内では大抵トップになることができた。
家は貧乏というほどではないが決して裕福ではなかった。
それが私が浜森中学に入学した理由。私の学力ならば、京東県でもトップクラスの偏差値を誇る私立中高一貫校、慶東中等教育学校に合格できる可能性もあると言われていたけれど、私の家系にそんな高い学費を出す余裕はなかった。
人は私のことを完全無欠の優等生と呼ぶけれど、私はそんなに優秀な存在ではない。
この前のテストでは学年2位に入ったけれど、1位ではなかったし、家庭科もある程度はできるけれど、自律するにはまだまだ未熟。
けれど、周囲は私を完璧な存在だと思っている。そして、過度な期待を寄せる。世の中に、何でもできる人間なんていないのに...
それに、私は人よりできる故の苦悩も抱えているのだ。
今でも印象に残っている出来事がある。クラスメートの牛島佐紀。彼女とは小学1,2年生の時にも同じクラスになったことがある。
当時、彼女は今の自信満々で自我が強いキャラとは似ても似つかなかった。
暗くて、怖がりで、いじめられていて、いつも泣いてばかり。
最初のいじめられていたのを目撃した時、私は彼女を助けた。
いや、助けたつもりになっていた。
いじめっ子を追い払って、彼女に手を差し伸べた。
「大丈夫?」と優しく声をかけて。
その時に彼女に言われたことは今でも忘れていない。
彼女は泣きながらこう言ったのだ。
「何様のつもり?真理ちゃんだったよね、確か。勉強もできてピアノも上手で、クラスのみんなの人気者。何でもできる真理ちゃんに私の何が分かるの?先生から良い子だって思われたいだけなんでしょ。もうほっといてよ。」
そして、私の手を強く振り払った。
その出来事があってから、佐紀がいじめられていても助けづらくなってしまった。
「今、私がやろうとしている行動は、果たして相手のためになっているのか?」という疑念が常に渦巻く。
小学校高学年になると佐紀は見違えるほど強くなった。
クラス内の中心的人物になり、今度は逆にいじめをする側になったのだ。
彼女とは違うクラスになったから、詳しいことは分からない。けれど、廊下をすれ違う時に佐紀と会うと、彼女が低学年の時と何もかも変わってしまったということが良く分かった。
他人に優しくできる昔の温厚な佐紀は消え、自分がクラスの中心的人物になるためにはどんな手段も厭わない現在の彼女の姿がそこにあった。
結局、小学校低学年の時以来、佐紀とは一度も話していない...